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「私も手伝います」
翔のお母さんが、立ち上がった。
「すぐできます。ゆっくりしてください」
「そうですよ。翔ちゃんのお母さん」
「ライちゃん、揚げ物は危ないからお母さんの所にいててね。ライちゃんの分もちゃんとあるからね」
陽奈はいつもライ用にと塩コショウを抜いたトンカツを作る。はじめは同じものを食べさせていたのだが、最近はいろいろ工夫してライのご飯を作っている。
揚げ始めると、トンカツのいい匂いが、家中に広がった。揚がるまでの間にお箸やサラダをテーブルに並べる。
「お待たせしました~」
「まあ、おいしそう!」
「ライちゃん、一緒に食べよ」
さっそく、お母さんは自分の分のとんかつをライの口に入れている。かわいくて仕方がない様子だ。
「ライちゃん、スープも一緒に飲むのよ。翔ちゃんのお母さんも、どうぞに召し上がれ」
「有り難うございます。とってもおいしいです」
「うまいだろう。母さん。陽奈ちゃんはすごく料理が上手なんだ」
「翔君。言いすぎよ」
陽菜が、嬉しそうに言う。
「ほんと、とってもおいしいわ。」
その時、表で自転車の、カチャッと止める音がした。
「あ! 兄ちゃん、帰ってきた!」
「兄ちゃん?」
不思議そうに翔を見る母に笑って答えた。
「母さんにも紹介するよ」
「ただいま! いいにおいがするなぁ! 今日はトンカツだな!」
大原、が嬉しそうにキッチンに入ってきた。大原は翔の母親を見るとピンと来たような顔をして会釈した。
「兄ちゃん、俺の母さんが見つかったんだ」
「あ、これはこれは、良かったですね。心配してたんですよ。な、翔」
「うん。兄ちゃんは、一緒に母さんを探してくれてたんだ」
「必死に探してたのは、俺だろ。翔は腹減った腹減ったばっかり言って食いもんばっかり探してたろ~」
「そんなことないよ!」
「そんで、帰ってきたら陽奈ちゃんの飯が一番うまいって、またガツガツ食ってたもんな」
大原は悪戯っぽく笑った。
「陽菜ちゃんとお母さんは、俺らが最終電車に乗って帰ってくるのを、いつも、あたたかい夜食を用意して待っててくれてたんだ」
翔が嬉しそうに言った。
「当り前でしょ。大事な息子が夕ご飯を食べたら、こっそり家を出て行くんだもの。ついて行きたかったけど、この足だし……。
ライちゃんたらね、翔君が出かけると、すぐに知らせてくれるの。今、翔ちゃんが行きましたって……。それで、私と陽菜ちゃんは、仏壇で亡くなった主人に、翔ちゃんを守ってくれるようにお願いしてたの」
「有り難う。お母さん、陽菜ちゃん」
翔が心から感謝して言った。
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