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「当たり前のことよ。私たち、家族じゃない。そしたら、大原さんが翔ちゃんの後を追いかけていく姿が見えて、安心したのよねえ、陽菜ちゃん」
「はい。私、すごく嬉しかったです」
「わたしなんて、思わず大原さんに手を合わせていたわ」
お母さんはそう言うと手を合わせた。
「兄ちゃん、ほんとありがとう。兄ちゃんがお店の人とすぐ友達になって、知り合いの人にも聞いとくって言ってくれる人もいたよ。自衛隊の知り合いにも話してくれたんだ」
「明日にでも見つかったこと報告しとかないとな!」
「うん!」
大原は、母が見つかって嬉しそうに話す翔を見て、痛々しいあの時の姿を重ねた。
平日でも夕食を済ませた後、こっそり出かける翔。その後をついていくと…………
大勢の人が行きかう大阪の繁華街でも、翔の容姿はかなり人目を惹く。すれ違う人がチラチラと見ている。
店の前で立ち止まったり、夜の人波に押されながらあちこち見まわしたりと、当てもなく探す姿は痛々しかった。探し疲れて戎橋の欄干にもたれて、呆けたような顔をして座りこんでいる翔に声をかけた。
「翔」
「あ、兄ちゃん!」
翔は驚いたように大原を見た。
「兄ちゃん、どうしてここに?」
「お前こそ、何してんだ? こんなところで……」
「…………」
「母さんか?」
「うん」
小さな声でうなずいた。
「俺も一緒に探すから、まずはなんか食いに行こう」
「うん」
「ウナギのうまいところを知ってるから、そこへ行こう」
「兄ちゃん!」
「なんや?」
「ありがとう!」
翔は大原が自分を心配して来てくれたのだと感じた。
「お母さんのことは一緒に探そう。お前のやり方じゃ一生かかっても見つからないぞ。」
大原はうなぎ屋の暖簾をかき分けて硝子戸をあけると、一番奥のテーブルに座った。
「うな重大盛りを二人前お願いします」
「はい!」
注文を取りに来た女性は、元気よく返事した。
「以上ですか?」
「はい。あの、すみません。この辺りに、相川恵子という女性働いてませんか? ……四十くらいの、小柄で丸顔の女性なんですが……」
「わかりました。うちもこの辺では長い間商売させてもろてます。知り合いも多いので尋ねてみます」
「助かります。向こうも自分たちのことを探していると思います。よろしくお願いします」
「分かりました」
女性はそう言って店の奥に下がっていった。
「兄ちゃん、ありがとう」
「明日は、ちょっと自衛隊の知り合いを訪ねてみるよ。早く探さないとな。今日は飯食ってから、もう一回りして帰ろう」
それから、二人は時間を作っては、ミナミやキタの繁華街を探して回ったのだった。
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