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翔の母は、朝、5時半に起きて、みんなの朝ご飯を作る。陽菜が起きてくるころには、電気釜からはシューシュー湯気が出ていて部屋全体が温かい。みそ汁の具や副菜は、夜の間に用意しておくようで、ご飯が炊きあがるころには、みそ汁もお魚もおいしくできている。
翔の母親が来てから、雨谷が来る前のような心地のいい空気が戻ってきた。お互いの過ごしやすいルールが自然と戻ってきたようにお母さんは思うのだった。
「お母さん、翔君のお母さんって優しくてとてもいい人ですね。それに家事の手際の良さがプロみたい」
初めて見たときは、陽奈はその手際の良さにビックリした。ほんとに翔の母がいると、段取りよく時間が経っていく。
「陽奈ちゃんもなかなかよ」
「でも、翔君のお母さんにはとてもかないません。料理もとってもオシャレで……。私も頑張らなくちゃと思います」
「それもいいけど、陽奈ちゃんはもっとキレイにして、いい人見つけなくちゃ、年頃なんだから」
「わたしはダメです。人と話すのが苦手で……。男の人は特に苦手みたいで……。うまく話せないんです」
「あら、患者さんとは和やかにお話してるじゃない。奥さんが陽奈ちゃんは患者さんに評判がいいって言ってたわよ。」
「患者さんだと大丈夫なんですけど……」
「ほら、大原さんや翔ちゃんとも、楽しそうにお話してるじゃない。」
「翔君や大原さんは大丈夫なんですけど……」
「大丈夫、陽菜ちゃんは、きっと幸せになれるわ!」
お母さんはなんだか自信満々に笑って陽奈の肩をたたいた。
「あの二人と話ができるならいいじゃない。誰彼なしに話をしても気ばかり使って疲れるだけよ。翔ちゃんと大原さんはなかなかそこらにはいないカッコイイ人よ。私の目から見てもウーンとうなずいてしまうわ」
お母さんは、この頃、いつもウキウキして幸せそうだ。そんなお母さんの影響を受けてか、陽菜の心も穏やかになる。
「楽しそうですね。何のお話ですか?」
翔の母が大きなバケツを持って裏口から入ってきた。
「あ、翔君のお母さん、それ……」
その大きなバケツは干す洗濯物を運ぶためのバケツだ。
「あら、陽菜ちゃん。洗濯物が出来てたから、テラスに干して来たの」
「ありがとうございます」
陽菜が干そうと思っていたのだが、翔の母の方が手際がいいし、さりげなく助けてくれるので重荷に感じない。陽菜は浮いた時間を勉強に充てようと思った。
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