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「今日、パートの面接に行こうと思うんです」
「え?」
「みんな頑張ってるでしょ? 私もそろそろお仕事探しに行かなくちゃと思っているんですよ。でも、もう年でしょう。良いところあるかなって心配なんですが……」
「まあ、まだいいじゃないの。もう少しゆっくりしてから考えても?」
お母さんが慌てて止めた。
「翔のためにも早く働きたいと、思ってるんですよ」
「分かるわ。でも、……それに翔君が大学へ行くお金くらいはあるから。そんなに慌てて行かなくても」
「そんな、とんでもない! そういうわけにはいきません……!」
翔の母は驚いてお母さんの申し出を断った。
「お母さんは、寂しんです。翔君のお母さんが働きに出れば、お昼の間また一人ぼっちになるから……」
陽奈の言葉にお母さんはフフッと柔らかく笑った。
「あら、陽菜ちゃん。6時半回ってるわ。お寝坊の二人を起こしてきてくれない?」
「は~い。お母さん」
陽奈に起こされた二人は、眠そうな顔をして、キッチンに顔を出した。
「おはようございます。フアー」
と大きな欠伸をしながら、大原が言った。
「さ、顔を洗ってシャキッとしてから朝ご飯を食べましょうね」
「ふぁーい。陽奈ちゃん」
「さ、早く早く! あら、ライちゃん、おはよう」
ライは、陽奈の足元を嬉しそうにスキップしてる。
「おいで、朝ごはんよ」
陽奈がライにやさしく言った。
「陽奈ちゃんはライにばっかり優しいんだから。ライ! お前ずるいぞ」
大原の言葉を分かっているのかいないのか、ライは嬉しそうにパタパタとオッポを振った。
「ほんとに何を言ってるんだか……」
お母さんはあきれ顔で嬉しそうに笑った。
「お、メシだ、メシだ! うまそう~! いただきま~す」
顔を洗ってきた大原と翔は、席に着くなりご飯にかじりついた。
「うまい!」
「ほんと!」
二人が幸せそうな顔で朝ご飯を食べるのを、翔の母は嬉しそうに見ていた。
「ごちそうさま。行ってきます。」
大原は元気よく会社に行った。
「僕は、まだ時間あるので部屋に戻ります」
翔が席を立つと、お母さんも……
「そう、じゃあ、わたしは、ライちゃんのお散歩に行ってきます」
ヨッコラショと立ち上がりかける。ライがそっと足元に寄り添う。自分を支えにするようにと言ってるようだった。
「まあ、ありがとう! ライちゃん」
お母さんは感動して、椅子とライを支えに立ち上がった。
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