第9章

12/27
前へ
/223ページ
次へ
「そうだわ。理沙ちゃんたち、今日は早番だからもう起きないといけないんじゃ……」 お母さんが二階を見上げた。 「あ、私、起こしてきます」 陽奈が立ち上がりかけると、上から二人が下りてきた。 「さ、ご飯ですよ。二人とも、お昼と夜は外食が多いから、朝はしっかりと食べてね」 翔の母が理沙たちの前に味噌汁を置いた。 「はい。いつも有難うございます。おいしそう、いただきます」 理沙と久美子はそっと両手を合わせてから、箸をとった。 「理沙ちゃん、久美ちゃん、私もね、働きに出ようと思ってるの」 「翔君のお母さんが?」 理沙が驚いたように言った。 「ええ、昨日スーパーに行ったときに、募集の張り紙を見て、私も働きたいなと思って、採用してもらえるかどうかは分からないけど、今日、行ってこようかと思います」 翔の母は自信なさげに笑った。 「翔君のお母さんなら大丈夫よ。一発合格よ」 理沙が励ますように言ってから、ガッツポーズをとった。お母さんだけ少し寂しそうに笑った。 ――― ―――――― 「お母さん、採用されました。」 翔の母は嬉しそうに、両手いっぱいにスーパーで、買い物をして帰ってきた。 「まあ!」 「今日からでも働いてほしいって、でも採用されたことをお母さんに報告したくて、帰ってきました」 「じゃあ、私が駅前のスーパーに行ったら、恵子さんがいるのね。でもお客さんの前に立つなんて緊張しない? 大丈夫?」 「私はレジ係じゃなくて、野菜を切ったり包装したり、裏方の仕事なんです。だから、お客様の前に立つことはないから大丈夫です」 「そうなの」 お母さんは少しガッカリしたようだ。 「寂しくなったら、恵子さんの顔を見に行けると思ったのに……」 「あ、私は、午前中の仕事なので、お昼ご飯は一緒にいただけます」 「そう! 嬉しいわ。少し遅くなっても待ってるから、お昼ご飯一緒に食べましょうね」 「出来るだけ早く帰ってきますね!」 そんなわけで、み~んな働きに行く事になってしまった。お母さんは一人取り残されたような気持になった。ライがお母さんの膝に顔を乗せて上目遣いで見る。お母さんはライのフワフワの毛を撫でた。 「私には、ライちゃんがいるから寂しくないわ。ね! ライちゃん!」 ライは、嬉しそうにオッポを振った。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加