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「陽奈ちゃん、今日の晩飯は何?」
「水煮よ。鶏も豚肉もお野菜もたっぷり入れて体があったまるわよ。ね、恵子さん」
野菜を切って下ごしらえを始めている翔の母親に言った。
「そうね。肉団子も鶏団子も入れて、大奮発よ。陽奈ちゃん、翔を呼んできてくれる?」
「はい。」
「お父さんも一緒にいかがですか? みんなで食べるとおいしいですよ」
お母さんの誘いに翔の父がためらったように笑っていると、大原も続けて言う。
「そうですよ。晩御飯、まだなんでしょ? ぜひ食って行ってください。うまいですから」
鍋が出来上がるころキッチンに湯気がもうもうとしておいしそうなニオイとともに心も暖まってくる。
「いきなり訪ねてきてそれではあんまりですので、私は、これで失礼します。」
翔の父は静かに立ち上がると頭を下げた。玄関まで送りだしたお母さんは何度も一緒に夕食をとるように言ったが帰るようだった。大原も心配して来ていたが何も言わず黙っていた。
翔の父親は少し思いつめたように考え込んでいたが、ジャケットの胸ポケットから封筒を出すと、ためらいながらお母さんに差し出した。見るからにお金の入っているのがわかる少し分厚い封筒だ。
「至らない私ですが、妻にこれを渡していただけないでしょうか?」
翔の父は頭を下げて言った。
「ご自分の手で渡してあげてください。その方が恵子さんも嬉しいと思いますよ。これからは気軽に遊びに来てくださいね。夕方にはみんな帰ってきます。お昼はこの年寄り一人ですけど……」
お母さんは、そう言って封筒をそっと押した。
“ク~ン”
ライの切なそうな鳴き声にそちらを見ると、犬専用の扉から体を半分だけ出してじっとこちらを見ている。
「ライ」
翔の父が呼ぶと、タタタッとそばに寄ってきて体を寄せた。
「ライ、お母さんのこと頼むな」
「そんなこの世の終わりみたいなこと言わずに、毎日でも来てください」
「そうですよ。気軽に来ればいいじゃないですか。飯だけでも食いに……。うまいですよ。恵子さんの作る料理は……」
大原は笑いながらしゃがむとライを撫でた。
「わたしの至らなさで、こういうことになって、妻と息子にどう謝ればいいのか……」
翔の父は寂しげに笑った。
「時間が解決してくれますよ。そう、悩まずに毎日飯でも食いに来てください。歓迎しますよ。それに母さんの話し相手になって下さったら、私たちも助かります」
大原はお母さんと頷きながら言った。
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