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次の日は上々の天気だった。
「恵子さん。今日は良い日ね。青空が広がって! 冬なのにこんなに暖かいわ。いい日で良かったわね。翔ちゃんのおばあちゃん、待って下さっていると思うわ。早く行きましょう」
「はい」
お母さんは、翔の母のゆっくり運転する車に乗って、嬉しそうにはしゃいで言った。しばらく車を走らせると、大きな門扉の家の前に止まった。
「ここ?」
お母さんは不思議そうな顔をしてあたりを見回した。塀の高い大きな家が並んで静かな佇まいだ。
「はい。どうぞ」
翔の母は、車をガレージに入れると、お母さんの介添えをするために助手席の扉を開けた。
「先に、ライちゃんを家に入れてあげて」
「はい」
「ライ。お家に着いたわよ。」
恵子がライのいる後部座席を開けて声をかけたが、降りてこない。頭を撫でてキュッと抱っこして
「おいで、ね?」
もう一度言うと、恐る恐る降りてきた。今度は、玄関から入ってこない。
「ライちゃん、上がっていらっしゃい。あの恐ろしい雨谷はもういないのよ。大丈夫だから、こっちにいらっしゃい」
お母さんに返事するようにライは静かに尾を振るが、家の中に入ってこない。
「雨谷が来てから外に繋がれるようになってしまったから、おびえてるんだと思います」
翔の母はそう言うと、ライを抱きしめて、
「ライ、もう大丈夫。この家に雨谷はいないわ。上がっていらっしゃい」
ライはやっと家の中に入ってきた。
「大きな家ねぇ」
「私の生まれた家なんです。」
「まあ!家付き娘さんだったの⁉ それなのに家を出て行かなくっちゃならないなんて、辛かったでしょう」
「私の我慢が足りなくて、翔やライに辛い思いさせてしまいました」
「長い人生だもの。山あり谷ありよ。でも、これ以上、恵子さんが家に帰らず仏様をほったらかしにしていたら、天国にいるお父様やお母様が悲しむわ。まずは、お仏壇をきれいにしてね。お花を持ってきたの」
「お母さん、私の両親に会っていただけますか?」
翔の母に案内されて、お母さんは仏間に入った。仏壇は閉められていて開けると枯れた花が小さくなって花器に入っていた。
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