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「でも、恵子さんのほうがひどい目に遭ってると思うし、簡単に許せるようなことでもない……。ただ、ご主人も悔いておられるようだから、話し合ってみてもいいのじゃないかしら…….。
どんなに辛いことがあっても、引きずると自分をむしばんでしまうわ。私がそうだったから……主人が戻ってくるまでずーっと主人を憎んでいたわ。でも、振り返ってみれば。憎み続けるのも苦しいだけだったわ」
「ご主人とお話して、どうでしたか?」
「自分だけが苦しかったんじゃないってことが分かったわ。……主人も、押しの強い親御さんだったから、相当苦しかったみたい。
いろんなことを命令されて……子どもが出来ないことでも責められて……。だから、話だけでも聞いてみましょう。許せるかどうかそれから考えてみてもいいと思うの」
「……私、優さんとは恋愛結婚なんです。だから、家に女の人連れてきたときは信じられませんでした。なのに、ここまでされて嫌いになれない自分も嫌で……。余計に優さんを許せないんです」
「でも、家族を守るためにはこの辺で区切りをつけなくてはね。何よりこの家はあなたの生まれ育った家でしょ?」
「……はい……」
「ご主人だって、苦しまれてると思うわ。本当は手をついて謝りたいと思ってらっしゃると思うの。でも、その勇気もなくて。毎日スミレ荘に何かと理由をつけて会いにみえるのよ」
恵子は無言でうなずく。
「大変なことだと思うけど恵子さんだけでも許してあげられないかしら。この広い家に一人よ。ご飯を作って洗濯して、会社に行って……女の私たちには何でもないことでも男の人には家事って大変だと思うわ」
「はい。私も今日、掃除して思いました。仕事人間で、家の事なんて何一つしたことのない人ですもの。お惣菜のパックやカップラーメンのゴミ袋が5つにもなりました。本当に難儀しているんだと思いました」
翔の母は、そう言って小さく笑った。
「そうよ。主婦は家事のプロなんだから。ご主人にそう簡単に出来るものじゃないのよ」
お母さんの言葉に恵子は嬉しそうに笑った。
「恵子さんも外に出て苦労したと思うけど、ご主人も十分に反省してると思うの。独りぼっちになって、家族がどんなに有難いか分かったはずよ。だからもうそろそろ、許してあげても良いんじゃないかしら。
恵子さんはこの家になくてはならない人なんだから。亡くなったお父さまもお母さまも、あなたがこの家にいないと寂しがっていらっしゃるわ」
お母さんの言葉に翔の母の心は大きく揺れた。
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