第9章

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次の日の朝、さっそく翔の母が訪ねてきた。 「お早うございます」 「あら、恵子さん! どうしたの?」 お母さんは、また何かあったのかと飛び上がった。 「あの、お掃除だけでもと思って……」 そう言いながら、廊下を掃き始めた。 「あなたの家こそ、まだまだすることがたくさんあるでしょ」 「お母さんの顔が見たくなって……。陽奈ちゃんは?」 「今、洗濯物を干しに行ったわ」 「陽奈ちゃん、もう仕事に行くでしょう? 大原さんは?」 「7時前に出て行ったわ。」 「じゃあ、ここは後にして陽奈ちゃんと代わってきます。」 裏庭に行くと陽菜が洗濯物を干していた。 「陽奈ちゃん、代わるわ。出かける支度して」 「翔君のお母さん……」 陽奈も驚いた様子で恵子を見た。 「そんな不思議そうな顔で見ないで」 「でも、」 「みんなに会いたくて、これからも毎日来るわ! さ、ここは私がするから!」 「はい。翔君のお母さん。」 「それから、これからは恵子って名前で呼んで欲しいな。大原さんみたいに」 恵子の申し出に陽奈はにっこり笑って、 「じゃあ、大原さんみたいにお恵ちゃんと呼んでもいいですか?」 「嬉しいわ。翔君のお母さんと呼ばれるたびに老け込んでいきそう!」 恵子はコロコロと笑った。 (翔君のお母さん、ほんとに嬉しそう。きっと大好きなご主人の元に帰れたからかしら) 陽奈は幸せそうな恵子を見て羨ましくなった。 「母さん、行ってきます」 翔の出かける時間になったようだ。 「あら、いってらっしゃい!」 お母さんと恵子が手を振った。 「じゃ、私も行ってきます。翔君、待って!」 陽奈は慌ててハンドバッグを取ると、自転車に乗った。翔は振り返って片足を下ろして待っていた。 「まるで本当の姉弟のようね」 「はい。」 穏やかな日々が戻ってお母さんはホッとした。お母さんと恵子は二人の姿が見えなくなるまでそこにいた。
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