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第10章
夜勤明けの大原が電車を降りる。時計を見ると、9時だった。
(翔も陽菜ちゃんも仕事行ったかな……。俺も朝飯食ったら寝よ)
大原は小さなあくびを一つした。
駅の改札を出ようとした時―――
スマホが鳴った。 お母さんからだ!
「お母さん?」
「雨谷が……雨谷が来たわ。今、車が止まったわ……」
「今、駅を出たところです。5分で着きます。隠れていてくださいね!」
大原は電話を切ると、すぐに110番した。 スマホでカメラを確認すると、雨谷らしい女と金髪の男が映っていた。
「こいつが雨谷か!」
女はニヤニヤ笑いながら、バットを持った男に部屋を指差して命令しているようだった。足元でライがバットを振りあげている男に、歯をむき出してうなり声を上げている。
(母さん。持ちこたえてくれ)
大原は祈るような気持ちで自転車に飛び乗り、思い切りスピードを上げた。家に着くと自転車を乗り捨て、家の中に飛び込んで行った。
「母さん。どこだ」
ワンワン! ウ~! ギャン!
ライの痛そうな悲鳴が耳を掠める。
ワンワン! ギャン!
「ライ! 母さん!」
金髪の男にお母さんが部屋の隅に追いやられて殴られていた。ライはバットで殴られながらも男の足を銜えて離さない。そのライを女も棒で殴っていた。
「お前ら、何してる!」
大原の声に振り返ると、雨谷が大原めがけて殴りかかってきた。大原はサッとかわすと思いっきり蹴り上げた。
「なにすんねん! 殺すど!」
金髪の男が振り上げた棒を取り上げると、床に叩きつけた。男はしばらく動かなかったが、起き上がりざまにナイフで切りかかってきた。大原の腕に鋭い痛みが走しる。
「へへ。どや、痛いやろ。へへへ」
金髪の男は優位に立ったと思ったようで、下品な声で笑った。もう一度、襲い掛かて来た時、ナイフを叩き落とすと、男の腕をひねり上げた。
「いー、痛い痛い~」
「母さん。大丈夫?」
「私は大丈夫だから。ライちゃんを見て……。何度も殴られて、私を守るために……私を守るために……」
お母さんはぐったりして、そう繰り返した。ライは痛そうにうずくまっている。
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