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「それにしても、あの二人組、ふてぶてしくてやらしい奴やなあ。自分らは働きもせんと、弱いもんを見つけたら骨の髄まで搾り取る。……ほんとに情けないほど嫌な奴等やなあ。…………あ、先ほどスミレ荘の中を見せて頂いたんですが、気の毒なほど荒らされていました。雨谷の部屋は以前にみせて頂いた時のままでしたが」
「そうなんです。片づけると、あの女が難癖をつけてきて、どんなに酷い目に遭わされるか分からないって、母さんが怖がるんです。だから、こっちも手をつけられなくて……」
「私たちが早く捕まえていれば良かったのに、すみませんでした」
「いえ、いえ、母さんはいつも警察の人に感謝していましたよ。ほら、パトロールに来ましたって、いつもポストに葉書を入れて下さってたでしょう。あれ、宝物のように大事に箱の中に入れて集めてましたよ。あなた達が入れてくれるたびに、母さんは嬉しそうに見せてくれましたよ。」
「それぐらいしか出来なくて、ほんとに申し訳なかったです」
警官は、大原に頭を下げた。
「いいえ、どれだけ有難かったか。ハガキが入るたび何度も読み聞かされましたよ。……『何時何分、見回りに来ました。お変わりありませんか。不審な時はすぐに110番してください。』って、耳にタコができるくらいです」
「あー! ほんとにある!」
警察官の人がほんとにビックリした様子で言うので、大原もつられて驚いた。
「えっ?」
「冗談ですよ。冗談」
二人は、雨谷を捕まえたという安心感もあったのか、心の底から笑った。
「それでは一言、言いに行ってきます」
大原は、パソコンを見ている警官に敬礼をして離れた。
「あんたが部屋に置きっぱなしの荷物、迷惑なんだ。早く片付けてもらえないかな」
大原がパトカーの後部座席に乗せられている雨谷に声をかけた。
「勝手にしたらええやろ。いちいちうるさいなあ」
雨谷はいつもどおりの投げやりな言い方だ。
「わかった。これ、録音したので、とやかく言わないように……後で一筆もらいに行くからな。それと、今までの家賃と処分にかかった費用を請求するからそのつもりで。それに、母さんに与えたストレスと暴行の医療費も請求するからな。おっと、これも請求するから」
大原は腕の傷を見せた。
「男のくせに、それくらいのことで大げさなこっちゃ。なんぼ請求してきても、金無いで。それに、私も100万貰わなあかんしな……」
雨谷は薄い唇を尖らせて、憎々しげに大原を睨みつけて言った。
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