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「お母さん。どうしてそんなに泣くの?」
理沙が、お母さんの背中をさすりながら尋ねた。
「私が、あんな、変な人を呼んでしまったから、理沙ちゃんや久美ちゃんに、迷惑を掛けてしまって、どんなに申し訳ない事としたか思うと……」
「え?」
久美子と理沙がキョトンとしている。
「お母さん、雨谷さんが男の人と一緒に住んでるから理沙ちゃんたちのことが心配で、夜、眠れてないんです」
「えっ、そうだったの、悪いことしたわ。私」
「?」
理沙の意外な言葉に、陽奈も「えっ」と思った。
「ごめんね。お母さん。言ってなくてゴメンね。あの男の子、そんなに悪い子じゃないよ」
「理沙ちゃんなんか、お店で残ったパンをいつも渡してあげてるよ」
「そうなんよ。あの子いつもおなか空かせてるみたい。私の持って帰るパンを待ってるような気がする。顔を見れば結構可愛いし。私が毎回持って帰るもんだから、店長なんか失敗したやつ用意してくれるようになっちゃった」
「あの子、理沙からパン貰うとき、すごく嬉しそうな顔するよね」
「うん」
意外な話にお母さんはビックリした。でも、心配事がひとつ無くなってホッとした顔をしている。
「そうやよ。だからお母さん心配しないでね! ね。 ね! 久美子」
「うん。そんなに心配しているって、ぜんぜん知らなくてごめんね。あの女は嫌なやつだけど、男の子の方は全然いい子だから、心配しないでね」
「そうなの? 本当に大丈夫なの? 」
「大丈夫! 安心して!」
理沙がローソクに火をつけて、久美子がキッチンの明かりを消すと、いつものキッチンが厳かな雰囲気になった。
お母さんはしばらくロウソクの炎を見つめていた。
「お母さん。お誕生日おめでとうございます」
みんなが拍手する中で、お母さんはうれしそうな顔をして、ぺこぺこと何度も頭を下げてお礼を言っていた。
「ありがとう。こんな素敵な誕生日のお祝いをしてくれて……」
「お母さん、ローソクの火を消して……」
「はい」
お母さんは大きく息を吸ってから「フーッ」と勢いよく火を消した。
みんながバースデイソングを歌うと、お母さんも幸せそうに口ずさんでいた。
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