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第2章
ピンポーン
家の中で鳴っている呼び鈴の音が、ここにまで聞こえてくる。
「はーい。すぐ行きます」
声とともにガラガラと玄関の引き戸が開いた。少し背中の曲った小柄で人のよさそうな六十過ぎの女の人が出てきたので、陽奈は慌てて頭を下げた。
「あの、私……、三上陽奈といいます。この張り紙を見てインターフォンを押させていただきました。時間も考えず申し訳ありません」
陽奈は必死だった。今晩泊まるところも無い陽奈は、祈るような気持ちだった。
「いえいえ、いいんですよ。寒かったでしょう」
こんな時間にインターホンを押した陽奈に、不振がる様子も見せず優しくしてくれた。“寒かったでしょう”という暖かい言葉に、じんわり涙が滲んでくる。
「どうぞ、中にお入りください」
女の人は家の中へ入るよう促した。陽菜は小さく頭を下げると、その後に続いた。
玄関に入った陽奈は驚いた。
まるで、普通の家なのだ。スミレ荘って門扉に書いてあったのに、全然アパートらしくない。普通の上り口に、普通の下駄箱……
(表にスミレ荘ってあったよね。見間違いじゃないよね?)
戸惑っているうちに、女の人は奥の部屋に入ってしまった。
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