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「この世には朝と夜があり、宇宙は素粒子と反粒子をもとにできている。そうやって均衡と整合性をもたらし秩序をたもっていると、人間は、それから科学は認識するし、観測し分析する」
体験と実験──を何回も何回も経て、と女は語る。
「人間だけじゃない、すべての生物が、つまり、この宇宙に存在するすべての有機化合物の生命体が、対になった遺伝情報を設計図にできているのだから」
眼の前にたくさんの、いろんな動植物が集まっているようだった。
「だからどこかに、この世界とは何かがちょっとだけ違う、または大きく多く異なるべつの世界がある、きっと」
女のときどき開く口の、その奥のぽっかりと覗く暗い穴ぐら。
「きっと時間や人生は、始まりから終わりに向かって一直線に進行するものでも、『歴史は繰り返す』なんていうみたいに循環するものでも、ない」
オレの鼻先に立てられた二本の小指が、すっと両方クロスし絡んだ。
「有名な哲学者は言う、いつか、すべては瞬間的にかつ遍在的に永劫回帰する、と。現在っていういまここの意識は過去の出来事だけじゃない、未来に起こることをも記憶しているのよ」
ちろりと一瞬、黒々とした穴ぐらで真っ赤な舌が蠢いた。
「それを尾を喰らう蛇は狂わした。純粋で整然とした『私と世界』っていうシステムを、外部/内部と線引きし関係づける神経網を、猛毒にもひとしい情報で」
女が蠱惑的に微笑んだ。
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