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「だとしたら、オレは……自分とは何なのか。ここは……世界とは何なのか」
いまにもオレの思考回路はバグりそうだった。
「その問いこそが障害を引き起こす、狂いを生じさせるの」
とうとつに女が真顔になる。
「ほら見て、いったいどの植物が、ほかのどんな動物が、そんなこと考える? 人間だけよ、『私と世界』っていう意味に囚われてしまうのは」
たしかに、他の生物はただたんに、純粋に自然に活動しているようにオレの眼には映る。なぜ生まれたのか、なぜ存在するのかなど、よけいなことは考えず、ただ感覚のまま感情のまま。
「私が何かとか、ほんとうに世界が1か0かとかそんなこと、まったくよけいなこと」
女がじっとオレの顔面をとらえる。
「どんなふうに疑おうと、『私と世界』って固定観念は、とても強固で簡単に壊れないし機能的に消えない」
その理由を知りたいとオレは思った。
「なぜなら、『私と世界』って感覚/認識の枠組みは最初から与えられているものだからよ。それ以上の答えはないの、それ以上その疑問を追求しても遡及しようとも、それ以外の解は」
女はつめたく無機質な声色で応えた。
「そういうふうにつくられているもの。この世に存在するさまざまな生命であれ非生命体の無機化合物であれ、すべての物質の形にとくべつ理由はない。土の塊は土っていう形をしているから土だし、リンゴって果実はリンゴっていう形をしているからリンゴなのよ」
それ以上の意味はない──そういうこと、か。
「そういうふうに感受し認知するように、定められている機能でしかない。だから『私』って自己同一性も『世界』って環境理解も、ただのフレーム。そう設定されているってだけ」
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