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ジェネシス 2.21―3.6
はじめに天と地が創造された──そして朝があり、夜があった。
「お目覚め?」
深い眠りの底から意識がよみがえったとき、かたわらには裸の女がいた。
「オレは……」
横っ腹のうずきを感じながら眼を見開くと、まぶしい天上だった。どうやら裸で地べたに寝転がっているらしい。
「オレは……? ここは……?」
記憶がない。記憶はよみがえらない。
ただ、ずっと神やユダヤ人預言者の言葉を聴いていたような、過去から未来まで人類の歴史を物語形式で追体験していたような……。
「私は誰、ここはどこ──か。なるほど、いわゆる『記憶喪失』ってわけね」
女が説く。
「それもそのはず。じつは、『私』ってのはゴーストみたいな存在で、『世界』ってのはすべてシミュレーションなの」
でも──と女が解く。
「ここは、さまざまな動物や植物が集うエデンっていう名のパラダイスの東端。罪を犯したから追われたのよ」
ああだから、とオレは長いこと抱えこまされていた、罪の意識のようなものの原因がわかった気がした。
「土からつくられた人間は、自身を原型と考えるあまり女性の女性性を否定し、呪われし蛇から禁断化した情報を得て、自己の同一性と現実の差異性を知るのよ」
一般的によくそれはリンゴに喩えられるという。
「どう、今回こそほんとうに思い出した? 自分が何モノか」
女が問う。
「人間」
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