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エロスとタナトス
声が聴こえる。
天と地が創造された──カオス状態から夢と現の境界がはっきりとしてくるように、おぼろげだった意識がだんだん立ち上がってくる。
「お目覚め?」
ふいに、すぐそばで女の声がした。
「オレは……」
頭痛と吐き気と横っ腹のうずきをおぼえながら、自動的に疑問が口をついて出た。
「ここは……」
重い瞼を上げると、真っ白で、まぶしい。
麻痺していた皮膚や筋肉の感覚組織と、眼の光を受容する器官の機能が良好になるにつれ、自分が天上を向いて横たわっていることはわかった。──が、しかし、
「オレは……ここは……」
記憶がない。なぜか記憶が戻らない。
ただ、ずっと誰かの言葉を耳にしていたような、何かドラマティックな出来事を体感していたような……。
「オレは……いったい? ここは……どこなんだ?」
おかしい。思考回路が正常に働かない。
眠る、というか、意識を失う、その直前までの記憶どころか、まったく何も、すべてを思い出せなかった。
「私は誰、ここはどこ──か。なるほど、いわゆる『記憶喪失』ってわけね」
見知らぬ女の顔が真上から覗いた。
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