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「かくして主観と客観を一致させることが目的となり、でも主観と客観を一致させることができないで未来永劫、意識とは、真理とはって難問に苦悩することになる。あわれよね、人間って」
人間は……。
「それそれ、それがまちがいなのよ。世界の実像を疑う主観的な視点にしても、私の認識に100%確実性はないとする客観的な視点にしても、じつのところ無意識に『私と世界』っていう枠組みを無根拠に前提としているもの」
真っ赤なリンゴは……。
「あるときは私の実存を、またあるときは世界の真相を、あるのかないのか疑っているように見せかけてその実ほんとうは、どっちもあるものとして最初から懐疑している。『私は誰? ここはどこ?』っていう記憶喪失とまったくおんなじ。『私と世界』って思考形式は最初から与えられている」
それを不思議に感じ、その固定観念じたいに疑いを懐くことはない──ということか、禁断のようなものとして。
「それにね、その存在を疑うにも、疑う対象のそのものじたいがあると最初に意識されないと、そもそも疑うことじたいができない──眼の前の『リンゴ』が実在するかどうか疑うには、すでにあらかじめ『リンゴ』っていう情報が与えられていなければ」
真っ赤なリンゴはかく語りき──。
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