6人が本棚に入れています
本棚に追加
欲しい──いきりたちオレは、無性にこのリンゴを食べたいと思った。噛みつこうと口を開け、歯を剥き出しにしたそのとき、
「ほら、欲している。このことこそが何よりの証拠だわ」
ぐちゃ──と皮を破る感触が、音が、した。
「私っていう主観があるのか、世界っていう客観があるのか、どっちがほんとうか先かなんてどうでも、どっちでもいい。現実に証明されているのは、このリンゴを欲しているっていうこと」
ぐちゃ、ぐちゃ──やわらかい果肉の歯ごたえ。オレは肉にむしゃぶりついた。
「このリンゴがあるのかないのかってことは、ほんとうの問題じゃない。このリンゴが欲動を覚醒させる限りにおいて世界が存在する、このリンゴが欲動を覚醒させるからこそ私が存在する」
ぐちゃ、ぐちゃ──つぎつぎ汁が溢れ出る。オレは夢中でかぶりついた。
「欲している──このことこそが『私と世界』を私と世界たらしめている証拠」
ぐちゃ、ぐちゃ──真っ赤な肉片と肉汁が飛び散り、そこらじゅう真っ赤に、赤く、赤に、赤々と、赤、赤、赤……。
気がつけば、オレは女の真っ赤な×××を喰らっていた。
「やっと思い出した? 自分が何モノか」
ぐちゃ、ぐちゃ──ふと我に帰ったオレは、裸で刃物を手に、無我夢中で女の躰をさばいているところだった。
THE JUWES ARE
THE MEN THAT
WILL NOT
BE BLAMED
FOR NOTHING
何もない何もない……と繰り返し独語し繰り返し自問しながら、オレは誰かの何かの言葉を書きなぐる。
「思い出した? ここは東の端よ、切り裂き魔──」
女の笑い声が谺する。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃぐちゃになった女の屍体が、血まみれのオレのほうを向いて笑っていた。
「名無し」
最初のコメントを投稿しよう!