卒アル

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先生方との交渉は上手くいって、ドッジボールの写真だけではなく校庭でクラス全員がジャンプする写真も撮れた。 ジャンプする直前と、ジャンプした瞬間の二枚の写真。 一枚目では私の隣で体勢を低くして飛ぶ気満々の沖田が、二枚目ではタイミングを外して一人だけ突っ立ったままでいる。 さっきから私はその二枚の写真を見比べて、ニヤニヤしていた。 「ごめんね、沢口さん!」 転がるように息せき切ってパソコンルームに入ってきたのは、汗だくの沖田だった。 「いいよ、いいよ。まあ、お茶でも飲んで落ち着いて」 校内コンビニで買っておいた緑茶のペットボトルを差し出すと、沖田はサンキューと呟いてゴクゴクと飲み干した。 沖田は野球部だ。さっさと引退したテニス部の私と違って、野球部員は予選で敗退するまでは引退しない。 だから、沖田の部活が終わってから、こうやってパソコンルームで写真を選ぶことにした。 私たちのデータだけではどうしても仲良しの子たちばかりが写っていて偏りがあるから、クラス全員に呼び掛けて卒アルに載せたい写真のデータを提供してもらった。 ところが、それぞれが何十枚も出して来たから、その中から選ぶ作業が大変になってしまったのだ。 「あれ? これって一年の林間学校の写真だ」 一本のUSBをパソコンに差し込むと、前髪ぱっつんで今より幼い顔の私がいた。 「もう! 誰よ。三年になってからの写真だけって言ったのに!」 「ごめん、それ、俺の」 「は?」 ビックリして隣の沖田を見上げると、なぜかもじもじしている。 「卒アル用じゃなくて、沢口さんにあげようと思って持ってきたんだ」 「へえ、ありがとう」 画面をスクロールさせると、膨大な量の写真にはすべて私が写っていた。 クラスマッチ、林間学校、文化祭、修学旅行、マラソン大会。行事のときだけでなく、普段の休み時間の教室の風景も。 二年三か月分の私の学校生活が、このUSBの中に凝縮されているようだった。ざっと見ても千枚以上はありそうだ。 「クラスメイト一人一人をこんなに撮ったの?」 「え? 沢口さんのことしか撮ってないよ。入学式のときから君だけを見てたから」
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