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エアコンの効いているパソコンルームは快適なはずなのに、顔を赤らめた沖田の額には玉のような汗が浮かんでくる。
「それって、いわゆるストーカー」
「じゃなくて! ずっと沢口さんのこと、好きだったんだ。毒舌家で鈍感でちょっと変わってるけど、正直で何にでも一生懸命で可愛くて」
「はい?」
何言ってるんだろう? こいつは。
誰が可愛いって? そんなこと、親にしか言われたことない。
「丸二年間同じクラスだったのに、名前も顔もはっきり憶えられてないことはわかってたから言えなかったけど。今はもう憶えてもらえたから、何度でも言う。君が好きだ。俺と付き合って下さい」
「いやいや、土下座は止めようよ」
パソコンルームは土足厳禁だから、床は綺麗だけど。
「お願いです! 俺と付き合って下さい」
「あのさ。正直、沖田のことはつい先日知ったばかりで」
「もうずっと毎日同じ教室で勉強してきたけどな」
「とりあえず下校時刻まであと二十分しかないから、早く選んじゃおうよ」
そこからは沖田がすごい速さで写真を選別してくれた。いらない写真をバッサバッサと切り捨てていく彼が、ちょっとだけ男らしく見える。
「逆光」
「ボケてる」
「構図が悪い」
「真ん中に写ってる奴の顔が変」
「いや、高杉くんはいつもこんな顔だよ?」
「沢口さんと見つめ合ってて腹立つから却下」
「は?」
「はい、これで終了! 帰ろう」
「お疲れ様でしたー!」
さっさと逃げ出そうとした私の腕を、沖田がガシッと掴んだ。
さすがは野球部。結構、力が強い。
「沢口さん、返事は今すぐじゃなくていいから、一晩よく考えて。それで、明日の朝、OKください」
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