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私は生まれてこの方、告白という奴をしたこともされたこともない。
君だけを見ていたとか、好きだとか、付き合って下さいとか。はっきり言って物理の授業よりも難解だ。
そんなわけで私は親友の千恵に電話して、助けを求めた。
「沖田くんも物好きだよねー」
「ここは怒るべきところなんだろうけど、実際、私もそう思う」
「一年の最初の頃はいつ告るんだろうって、みんなハラハラドキドキしてたんだけど、今じゃすっかり諦めてたからね。あ、沖田くんが諦めてたんじゃなくて、みんながね」
「え? 一年の頃から彼が私を好きだって知ってたの? みんな?」
「そ。きっと卒業する瞬間まで、穂積にとって沖田くんは空気みたいな存在のままだろうなって思ってたよ。いやあ、彼も頑張ったね」
千恵の声が涙ぐんでいるように聞こえるのは、きっと私の気のせいだろう。
「で、もちろんOKするんでしょ?」
「なんで”もちろん”なの?」
「何言ってんの。あんなに穂積のことを好きでいてくれる人なんて、この先百年待っても現れないよ?」
「……だよね。私もそうだとは思うけど、だからって付き合っちゃっていいの?」
「いいと思う。じゃ、おやすみ!」
やけにあっさりと電話を切られ時計を見ると、千恵の好きなドラマが始まる時間だった。
その夜、私は沖田の夢を見た。
棺桶に入った私の皺だらけの手を握り、沖田は涙を流している。そして、彼は私の広い額にそっとキスを落とした。
あ、これって百年後の私たちだ。そう気付いたら目が覚めていた。
いや、待てよ。私たち、今、十七歳なんだから百年経ったら百十七歳? まあ、医療技術の進歩は目覚ましいから、あり得ないことではないか。
それにしても……幸せな夢だった。
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