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保健室を出ると、私は沖田を睨み上げた。
「ねえ、何で先に戻らなかったの?」
「いろいろ心配で。それよりさっきの話。俺、沢口さんのこと、デコなんて呼んでないからね」
「え?」
「それ、たぶん聞き間違い。高杉が『富士額って何?』って訊くから、『沢口さんみたいな綺麗なおでこのことだ』って話しただけ」
「……あっそ」
私は赤くなった頬を見られないように少し速足で歩きだした。
綺麗なおでこだって。そんなこと言われたことない。
追いかけてきた沖田が私の顔を覗きこんだ。
「わかってくれた?」
「わかった。敵認定やめる」
「うーん。それで俺の存在がまた”うっすら”に戻るのは困るな」
「別にいいじゃん。私にどう思われようと」
私は人にどう思われようと構わない。私は私だから。
だけど、沖田はそうじゃなかったみたいで、ピタッと足を止めた。
「良くないよ。沢口さんには好かれたいから」
「は?」
見つめ合った沖田の顔が見る見る赤くなる。きっと私も同じだ。
何なんだ、これ?
顔だけじゃなく全身が火を噴きそうなほど熱くて、ドキドキしている。
大体、"好かれたい"って何?
誰とでも仲良くしましょうっていう奴? それとも長い物には巻かれろ?
「穂積ー! だいじょーぶー?」
校庭で手を振る千恵を目指して、私は全力疾走で沖田から逃げた。
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