デコ

6/6
74人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
保健室を出ると、私は沖田を睨み上げた。 「ねえ、何で先に戻らなかったの?」 「いろいろ心配で。それよりさっきの話。俺、沢口さんのこと、デコなんて呼んでないからね」 「え?」 「それ、たぶん聞き間違い。高杉が『富士額(ふじびたい)って何?』って訊くから、『沢口さんみたいな綺麗なおでこのことだ』って話しただけ」 「……あっそ」 私は赤くなった頬を見られないように少し速足で歩きだした。 綺麗なおでこだって。そんなこと言われたことない。 追いかけてきた沖田が私の顔を覗きこんだ。 「わかってくれた?」 「わかった。敵認定やめる」 「うーん。それで俺の存在がまた”うっすら”に戻るのは困るな」 「別にいいじゃん。私にどう思われようと」 私は人にどう思われようと構わない。私は私だから。 だけど、沖田はそうじゃなかったみたいで、ピタッと足を止めた。 「良くないよ。沢口さんには好かれたいから」 「は?」 見つめ合った沖田の顔が見る見る赤くなる。きっと私も同じだ。 何なんだ、これ? 顔だけじゃなく全身が火を噴きそうなほど熱くて、ドキドキしている。 大体、"好かれたい"って何?   誰とでも仲良くしましょうっていう奴? それとも長い物には巻かれろ? 「穂積ー! だいじょーぶー?」 校庭で手を振る千恵を目指して、私は全力疾走で沖田から逃げた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!