【第2話】英雄裁判(前編)

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「それは、術がおざなりで不完全な状態だったんですよ。本来の秘術は、生前と変わらぬ姿を再現し、死者を救うためにあるもの……話が逸れましたね。本題に戻っても?」 「ああ、すまない」  再び正面に回ると、ユニアスは改めて自らの生業について説明した。 「あまり知られていませんが、ネクロマンサーの正業は無念を残して亡くなった死者の魂の救済です。実を言うと俺はこの街に越してきたばかりなんですが、着いて早々彼女の嘆きの声を拾いましてね。まあ正確には、先に気づいたのはアーデルハイトの方だったんですけど」  助手と紹介された少女が、表情は変えずわずかに胸を張ったように見えた。それに苦笑しながら、ユニアスは言葉を続けた。 「カトレアは、あなたと同じ時に砦で怪我人を診ていた看護師だったそうですね。攻防戦になった際、医師や看護師が先に避難した中、最後まで患者の世話をしていたために逃げ遅れて亡くなったとか。その行動から、人々は彼女も英雄と同等に扱うべきと、遺体はあなたの霊廟に共に眠っていた……この街の歴史ではそういうことになっています」 「……歴史では?」 「そう、事実は違った。依頼人の話では、彼女は襲撃の当日ではなく――その前日の夜、砦で何者かに殺されたのだそうです」 「――馬鹿な!!」  ガタン、と椅子を揺らして立ち上がったレオの肩を、ユニアスは宥めるように押さえた。     
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