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滑るように床の上を歩いてキッチンに向かうと、すぐに彼の愛用のマグカップにお茶を満たして戻って来た。
「はい」
ぐい、と無造作に差し出されたカップを、ユニアスは気圧されるように受け取った。
「……この雑な所作と料理の腕前がまったく釣り合わない」
「何か言った?」
「いや、サンキュ」
「うん」
無表情で頷くと、アーデルハイトは布巾でテーブルを拭きながら客用のカップをキッチンに下げ、手早く洗った。濡れた手を拭き、お茶を飲んでいるユニアスの傍に歩み寄ると、テーブルに手をつきながら訊ねた。
「夕飯は?」
「あー……何でも良いけど」
「何でもなら、草でも食ってろ」
「口悪っ……いや、おまえのつくるもんは何でも美味いよ。だから」
「褒めてもだめ、希望を言う。あと三秒」
「三秒!? えっと、じゃあ久々にキッシュは?」
「キノコで良ければ」
「それでいいよ」
「準備する」
どこか満足そうに、アーデルハイトは再び滑るような動作でキッチンに戻った。手際よく動き始めた少女を椅子に座ったまま垣間見つつ、ユニアスは独り言のようにつぶやいた。
「さっきの記者、おまえのためにも頑張って続けろってさ。でもそれって矛盾してるよな――おまえを還すことだけが、俺がネクロマンサーを続けるただ一つの理由なんだから」
三年前、仮蘇生した時から全く姿の変わらないアーデルハイトは、ユニアスの言葉に反応することなく夕飯の支度を続けた。
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