【第2話】英雄裁判(前編)

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 小さく名を呼びながら思わず手を伸ばすと、カトレアと呼ばれた二十代前半くらいに見える金髪の女性はびくりと身を固くした。隣に控えていたアーデルハイトが落ち着かせるように寄り添い、ユニアスは二人を守るようにレオの前に進み出た。 「すみませんが、俺の許可なく依頼人に話しかけないでもらえます? 彼女は、ひどく怯えていますので」 「依頼人、だと?」 「そう、彼女――カトレア・スノーは俺の依頼人です。彼女は、かつて戦時中に砦で殺された。あなたはその事件の、ただ一人の証人というわけです。あなたの墓は、今から真実を問う裁きの庭となる」  ユニアスはそう言うと、芝居がかった様子で優雅に一礼した。 *** 「ちょっと待ってくれ、良く意味が呑み込めないのだが。そもそも、あの戦争で亡くなった人間はカトレア一人では……」  混乱して首を振るレオに、ユニアスは気の毒そうに頷いて見せた。 「無理もありませんよ。蘇ったばかりで、時代の空気にも馴染みませんよね。そうですね、まずは深呼吸でもしてください」 「いや、そういうことではなく」 「深呼吸じゃ足りません? それじゃあひとつ肩でも揉みましょうか」  背後から両肩を掴まれて、慌てて振り解きながらも人の体温を感じることに驚いた。 「……自分が死んでいるとは到底信じられないな、あまりにも生前のままだ。私が戦場で相手にしたことのある死者は、血が通っているとも思えず、それこそ化け物のような姿だったが」     
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