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2 会
待ち合わせの喫茶店でケイと会う。周りの人間にどう見えるか知らないが、わたしとケイとの、この行為は決してデートではない。友人として、単に親交を深めているだけだ。
「メグ、今日は女子高生かよ。趣味が悪いな」
「今時流行らないパンクロッカー・モドキに言われたくないよ」
と、会えば、いつもの軽口を交わす
「元気だった」
「生きてたよ」
「人生は辛い……」
「もう慣れた」
「おれは慣れないな」
「わたしより達観してるくせに……」
「メグと会って少し変わった」
「それって良いこと、悪いこと」
「たぶん両方……」
「わたしの方はケイと会って楽になったよ」
「良かったね。それで何処へ行く」
「まず、何かを飲んでから……」
特に欲しいモノもないので、わたしはメニューを見ずにホットコーヒーを注文する。この店Lのホットコーヒーは美味しいのだ。酸っぱさが決め手だから、人によって好みはあろうが……。
「ケイは何を飲んでるの……」
「ノンアルコールビール」
「趣味がわかんないよ」
「単に気分だから……」
それから暫く無言で過ごす。
ケイと居て困らないのは沈黙が辛くないことだ。相変わらず何を考えているのか読めない部分はあるが、悪意は感じない。それでもキレるときにはキレるケイだ。わたしを救ってくれた、あのときのように……。
ケイは体系的には細マッチョだ。脚も腕も首も細いが、筋肉が浮き出ている。男にしては尻が大きいが、気になるほどではない。
今日、ケイの顔にはパンクメイクが施されている。髪型はシド・ビシャス風だ。
一方のわたしも脚は細いが、細過ぎない。腕も首も細いが、細過ぎない。女にしては尻が小さいが、それを誤魔化す気はしない。腰の括れを維持するのは大変だが、まあ、ある方だ。今日の顔はノーメイクだ。が、つけまつげ、だけはしている。女子高生なので清楚系を……。
「メグは肌が綺麗だよね」
不意にケイが口を開く。
「あと何年持つと思う」
否定をせずに、わたしが問いの形でケイに答える。
「メグ次第じゃない」
「ケイも肌は綺麗だよね」
「そうかな」
「そうだよ」
「まあ、綺麗かどうかはともかく、どうしても脂肪が残るから自分の肌が好きになれない」
「並みの男より締まってるよ」
「メグの括れもね」
「いや、並みの女には負けてるんじゃない」
「それなら、お尻を増強すれば……」
「その手もあるけどさ。動き難くなるから……」
「じゃ、頑張るしかないね」
「うん」
ケイの部屋の鏡で見た自分の腰の括れと肌の色を思い出す。すぐ近くにあったケイの裸身は薄い褐色だ。断って触らせてもらうと、かなり固い。腕の筋肉も同様だ。
特に何をするでもなく喫茶店Lで、わたしとケイは時間を潰す。休日午後の気怠(けだる)い感覚が心地良い。このまま根が生えそうだ。
「じゃ、そろそろ行くか」
タイミング良くケイが誘う。
「今日はわたしが払うから……」
「わかった」
最初の頃から飲み物代は交代で払う習慣ができる。互いに奢る気がなかったのが、今となっては可笑しい。
「で、何処に行く」
「何処でもいいよ」
「相変わらず、主体性がないな」
「休日の特権かな」
「じゃ、メグがメイドをやってる公園に行こう」
「今日はやらないよ。服もないし……」
恋人でもないのに自然と手を繋ぎ、駅の改札を、わたしたちは抜ける。
「どっちの公園がいいわけ」
「それこそ、どっちでもいいよ」
「じゃ、人が多い方……」
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