一章 僕らの思い two

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そう聞き返すと、その質問が嬉しかったのかまたは単純に俺が話題に興味をもったのが嬉しかったのかわからないが、すでに輝やかせていた瞳をより一層輝かせて言う。 「そうなんだよ、えーと、22とかそれくらい。」 そして俺の言葉を待たずに続ける。 「その先輩、優亜さんって女の人なんだけどな、すげえの!」 すごいだけでは何も伝わらん、と言おうとしたがそれもそれで水を差すように思えてうんうんと頷きながら話を促す。 「幅広い音域、それに加えて高い演技力。尊敬しないわけがないんだ…俺も…ああいう風になりたい」 最後の方は俺に聞こえるギリギリの小声になりながらもそれでもハッキリとした意志を見せた。声優を目指している万騎からすれば本当に尊敬できる存在なのだろう、と俺は思った。 「じゃあ尚の事色々頑張んないとな。お前テンション低めなんだし、感情の起伏も小さいからな」 万騎は基本あんまり感情を露わにしたりしない、同級生に言わせればクールだが俺の前ではそうでもない。喧嘩はしょっちゅう起こる。些細なことで喧嘩する。それに万騎は結構短気だ。普段学校でクールだなんだと言われているその仮面も俺の前では剥がれてしまう、その事実が俺は嬉しいとも思えて勿論喧嘩しないに越したことはないのだが喧嘩さえ愛おしいと思えてしまう。 「そうだな、なぁ秋。感情ってさ、どうしたら豊かになんだろうな」 感情が豊かではないと言っても喜怒哀楽の何処かが欠けているという訳ではない。きちんと笑顔にもなるし怒るし涙を見せる。だから感情豊かでないと言うより万騎は少し感情表現が不器用なだけだ。以前にも同じように問われそう伝えたことがあったがそれではだめなんだと一喝されてしまった。演技に活かせてないって意味でいったら感情表現が不器用なのは感情が豊かじゃないってのと同じことだ、とかなんとか。確かに正論だとは思うがそれでも俺に言わせれば本当に万騎は少し不器用なだけだ。 「色々経験すればいいんじゃないか」 同じことを言って万騎を不機嫌にさせないように前回とは異なることを言ってみる。 「経験?…部活とか?」 万騎は俺の言葉を受け、そばにあった俺のバスケットボールを見ながら呟く。俺らは同じ中学で同じバスケ部に所属していた。ちなみに今万騎が眺めているボールは四歳上の俺の姉ちゃんが俺と万騎で仲良く使えと買い与えてくれたものだ。
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