74人が本棚に入れています
本棚に追加
卒業旅行
私はベッドの上で目を覚ました。
そしてさっき見た夢を思い返していた・・
何で、あんな昔の夢を見たんだろう・・。あの後、高岡先輩も義信君も東京に引っ越してしまい、一回も会っていない。それなのに・・突然・・??
私、川橋梨花は大学院をこの春卒業して、日本一の大企業、帝国自動車に四月から入社する事になっている。そして今日は卒業旅行でドイツ、ミュンヘンのホテルに居た。
唐突に見た十年以上前の夢に戸惑いながら、時計を見るともう七時を廻っている。
私はベッドから起き上がると急いで身支度をした。そしてホテルをチェックアウトしたのは八時三十分を回った所だった。ホテルを出ると目の前のミュンヘン中央駅に向かう。
そこから八時五三分の電車に乗ってプリーン駅を目指した。
私の乗った電車は約一時間でプリーン駅に到着した。駅のコインロッカーにスーツケースを預けるとショルダーバックだけを持って、有名なキームゼー鉄道のSLに乗って船着場を目指す。SLは歩くより少し早い速度で船着場に到着し、直ぐに遊覧船でヘレンインゼル島に渡った。
この島にはバイエルン王ルートヴィヒ二世が建設したヘレンキームゼー城がある。この城はパリのヴェルサイユ宮殿を模して建設されており、一度は訪れてみたいと思っていた。
船着場から遊歩道をゆっくり歩いた。その日は快晴で、春の陽気に包まれ、遊歩道の両側の緑がとても綺麗だった。
十五分程で、島の中央のNeues Palais(新しい宮殿)が見えて来る。
宮殿の中は正に絢爛豪華だった。ヴェルサイユ宮殿より長い鏡の回廊。その天井にはルートヴィヒ二世が崇拝したルイ十四世の壁画が飾られている。食堂にはマイセン陶磁器で造られた世界一のシャンデリアもあった。
「えっ?」
私は食堂の出口で見かけたアジア系の男性に目を奪われた。百九十センチ近い長身、あの横顔は・・ どこかで・・?
直ぐに食堂を出てみたが、既にその男性は見えなくなっている。
まあ、こんなドイツの片田舎のお城に来ているアジア人は限られているから、少し懐かしい気がしたのかな・・? と考えながら、私は宮殿の見物を終えた。
最初のコメントを投稿しよう!