74人が本棚に入れています
本棚に追加
入社
四月一日。私の入社式の日だ。
帝国自動車の本社は横浜にある。横浜駅の朝はとても混んでいて真っ直ぐ歩く事も出来ない。会社はみなとみらいにあるのでJRを降りると東口方面に向かった。
「えっ?」
私は前方を歩くスーツの男性に目を奪われた。あの後ろ姿はドイツで見た彼と似ていた。
私は足を早めた。東口の地下街ポルタへ降りる階段の上に来ると、その人は既に地下街の先の方を歩いている。階段を駈け降りる。そして走ったが、また見失ってしまった。
入社式を終えると、新入社員のオリエンテーションがあり、一人一人の配属先が説明された。私の所属は商品企画本部先進車両企画部。オフィスは本社の十九階との事だ。
明日からは自分のオフィスに出社する事になる。
翌日、自分のオフィスに少し早めに出社した。
十九階は秘匿フロアになっていて、特別のIDを翳してオフィスの中に入った。
十九階のオフィスからはみなとみらいの地区の沢山のビルが綺麗に見える。
商品企画本部のエリアに来ると若い女性が迎えてくれた。
「川橋梨花さんね。私は富川恵理。あなたの一年先輩よ。宜しく」
そう言うと恵理はオフィスの中に案内してくれた。まだ、始業前なので出社している社員は疎らだった。
「ここが貴女の席ね。座ってみて」
私の席は片付けられていて、向かい席とはパーテーションで仕切られていた。
椅子に腰を降ろす。机の上には黒色のパソコンが置かれていた。
「パソコンの設定は後でIT担当がサポートしてくれる。これが座席表ね。私の席はここだよ」
恵理が座席表を見せてくれて自分の席を指して教えてくれる。
座席表には既に自分の名前が記入されている。川橋・・ ここが私の席。右隣は空きか・・ 左隣は・・高岡・・うん? まさかね・・
「左隣は高岡さん。貴女の二年先輩で一緒に仕事をする事になるわ」
二年先輩か・・ 本当に高岡先輩と同い年で同じ名字・・。
「結構、イケメンだよ。でも、女の子には興味無いみたい。何でも昔、片思いだった彼女を忘れられないんだって・・」
私はそうなんだ・・どんな人だろう・・? と思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!