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「入って」綺麗な英語の声が聞こえてくる。
彼に続いて私は役員室の中に入った。モデルの様な美人の女性が自分の席から私達を見ていた。
「おはよう、YT。その娘ね。新入社員の・・梨花」
そう言うと、その女性は立ち上がり私の前に歩み寄って右手を差し出した。
「初めまして、梨花・川橋。私は、カーラ・ベーロ。カーラと呼んでね」
私は彼女の右手を握り締めた。
「初めまして、カーラさん。私もリカと呼んで下さい。こんな美人のボスの下で働けるなんて光栄です」
「うん、英語も上手ね。入社試験もトップだったって聞いている。活躍期待している。まずは、YTが来月提案する電気自動車のプレゼン作成の手助けをお願いね」
「ありがとうございます。頑張ります」
「それじゃ、カーラ、また後で・・」
高岡さんはそう言うと私を連れてカーラの部屋を辞した。
席に戻ると私は高岡さんに聞いた。
「カーラさんは何故YTと呼ぶんですか?」
「えっ? YTは僕のイニシャルで、僕はファーストネームで呼ばれるよりイニシャルで呼ばれるのが好きなのさ。だから外国人にはそう呼んで貰っている」
やはり彼のイニシャルはYTだった。中学時代ととても似た容姿・・ 高岡の名前、二年先輩・・本当に彼は・・
「高岡さん。私の事、覚えています?」
「うん。勿論。ドイツで・・会ったよね」
「そうじゃなくて、もっと前に・・。貴方はサッカーのエースだった高岡先輩ですか? 私、貴方のYT砲を覚えています・・」
私がそう言った瞬間、彼が大きく目を見開いた。そして大きな溜息を吐いた。
「違う。僕はサッカーはやっていなかった。人違いだ・・」
私の期待は脆くも崩れ去った。残念ながら同じ名字の他人の空似だった様だ・・
私が本当にガッカリした表情を見せると、途端、彼は悲しそうな表情を浮かべた
それは、本当に一瞬だったけど、私の心にそのイメージが大きく残った。同じ様な悲しい表情を何処かで見た様な気がしていた。
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