役員提案、そして

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役員提案、そして

それからの一ヶ月は、本当に忙しかった。高岡さんが準備を進めていたいのは社長が議長の商品企画会議での新型電気自動車のプレゼンだった。通常、役員会議のプレゼンは部長クラスである商品主管が行うが、この電気自動車の提案は、全てを高岡さんに任されていた。 彼はこのプレゼンの為に、三月には世界中を周り、様々なマーケットでの電気自動車の顧客ニーズや必要性能等をリサーチして来ていた。その途中であのドイツでの出会いが有った事になる。 私は、彼の知識や企画力、そして電気自動車に籠める想いに舌を巻いていた。そして、いつしか私は、高岡先輩に似ている彼としてでなく、彼自身に恋する様になっていた。でも恵理から聞いた、片思いの彼女を忘れていないと言う言葉が心に刺さり、自分の気持ちを心の中に秘めたままだった。 その日、役員室で行われた商品企画会議で、高岡さんのプレゼンはフィナーレを迎えていた。 「顧客の電気自動車に対する期待は日増しに高まっています。特に若い顧客を中心に環境意識の高まりから、この商品は将来大きな拡大を見込めます。自動車会社としても持続可能な地球環境を未来の子供達に残していく為に避けては通れない方向です。確かに大きな投資が必要ですし、いくつかのリスクが存在します。しかし、この戦略的な商品の開発を是非ご承認下さい!!」 高岡さんのプレゼンが終わった。役員室内は一瞬の静寂の後、まずは社長の小林が大きな拍手を始めた。それに他の役員が続く。小林がコメントする。 「私はこんな素晴らしい提案を見た事が無い。いつもの部長連中のプレゼンは、販売台数や収益のみが中心だ。一方、君は、地球環境や子供達の将来を熱く語った。本当に感動した。勿論、この提案を承認する。そして、君を電気自動車の商品主管に任命する。全て企画を君に想い通り進めてくれ・・。これからは君達若者の時代なんだな。本当にありがとう!!」 会議室の前に立ち、小林の言葉を受け止めていた彼は本当に誇らしげだった。そして、それを少しだけでもサポートする事が出来た私も本当に感動していた。
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