萌え出づる病

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萌え出づる病

 蔓草病に罹ったのは、姉のモイラが最初だった。  リーガン星系の恒星オドを巡る辺境惑星エメニア。その砂風と岩石で構成された星の片田舎で、病に冒された姉は寿(ことほ)がれた。  母星では数十年に一度の割合で若い女が罹患したという、肌に緑の曼荼羅じみた文様が浮かび上がる奇病。それは蔓草のようにするするとはびこり、徐々に身体を衰弱させる。  実はある種の寄星虫(星から星へと寄り飛ぶの意)の毒素への反応であり、その蜘蛛に似た外観の小さな星物の寄生に、人は緩やかに死へと縫い合わされるのだった。   伏せった姉は、皆に〈苗床〉と呼ばれ敬われた。  なぜなら、それは吉兆だから。直接の因果関係は解明されていない。けれど、蔓草病が発症すると、恵みの雨が降り、作物は豊かに実り、子は健やかに生まれ育つという。実際、姉が発病した年、エメニアでは鉱床が発掘され、星は潤い、金は回り、人々の間には笑顔が満ちた。     
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