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 やつは決して羽衣子本人に手は出さない。  果たして本当にそうなのか?  柳はともすれば沈みそうになる意識を辛うじて保ち、自問自答しながら羽衣子の元へと夜道を駆けた。  アパート周辺に設置された防犯灯の黄色に輝く外壁が見えてくる。  もしやつが行ったとしても羽衣子は決してドアを開けないだろう。それでも襲うなら窓を割って侵入か? とすれば近隣に聞き咎められ騒ぎになる。  近づくにつれ、いつもと変わらず静かなアパートの様子に胸を撫で下ろした。  だが、部屋の前で足が止まった。  開きっぱなしのドアから中の光が漏れている。  頭や顔の傷がいきなり脈打ち始め、今まで忘れていた痛みが柳に襲いかかった。 「羽衣ちゃん?」  声をかけたが返事はない。  争ったような形跡はなかったが、下駄箱の上に飾ってある猫のフィギュアが倒れ、血の雫が一滴だけ床に落ちていた。 「羽衣ちゃんっ」  大声を出して眩暈を起こし、柳は壁に手をついて身体を支えた。赤い涙が頬を流れる。  ったく、あれだけ開けるなって言ってあったのに。どこまでドジなんだよ。  遠くから聞こえてくるパトカーの音を聞きながら柳の意識は静かに沈んでいった。
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