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佐竹
路上でぶつかり絡んできた若者を廃ビルの一室に拉致してきた佐竹は放置された電気ケーブルで手足を縛り上げ、埃と砂にまみれる床に転がした。
悲鳴を上げられないようすでに舌は切り取り、口内には脱がせた靴下を詰め込んである。
絡んできた際の悪意のこもった眼差しは今は恐怖に変わり濡れた瞳が命乞いしていた。
佐竹は若者にまたがると左目をサバイバルナイフで抉り取った。
蟻に集られた芋虫のように全身を跳ね上げながら喉で呻く若者を太腿で締め上げて抑え込む。
頭の中で爆発が何度も起こっていた。
佐竹の目にはこの若者が柳に映っていた。
羽衣子のそばで同じ空気を吸い、羽衣子とともに食事をし、羽衣子と会話し、羽衣子の笑顔を間近で眺めている憎いあの刑事に。
羽衣子を犯罪者だと疑っているくせにまるで恋人気取りだ。
佐竹は怒りに任せ『柳』の高い鼻を削ぎ落した。次に両頬を耳まで切り裂く。血でぐずぐずに濡れた靴下がぽろりと落ちた。
残った右目に佐竹が映る。
そうだ。俺を見ろ。俺が殺人鬼だ。そして羽衣子の男だ。お前じゃない。
腕を振り上げ力任せにナイフを右目に突き立てた。
尻の下の『柳』が痙攣する。
深く押し込んだナイフを抜くと顔を切り刻み、それでも足らずにシャツやズボンの上から腹を裂き、股間に刃を立てた。
『柳』はもう動かなかった。
だが、本物の柳はまだ生きて羽衣子のそばにいる。どんなに切り刻もうとこいつはあの男ではない。
死体の脚を持ち、隣の部屋まで引きずっていく。
ドアを開けると音を立てて蠅が飛び立った。
中には何体もの『柳』が顔を刻まれ、身体を切り刻まれ転がされていた。すべての『柳』の股間が丸ごと切り落とされ、一か所に山積みにされている。
佐竹は新しい『柳』を仲間に加えるとドアを閉めた。
こんなことをしていても何も意味がないことはわかっている。羽衣子を自分のものにしなければ意味がないのだと。だが、それをいまだ躊躇していた。
柳に微笑む羽衣子を見てしまったからだ。
死んだ羽衣子にではなく生きている彼女に自分も微笑みかけて欲しい。
そんな欲が沸いた。
だが、羽衣子は決して自分に微笑むことはないだろう。柳を殺せばなおさらだ。
やはり彼女をそばに置くなら死体にするしかない。
その前に本物の柳を殺す。
今度こそ佐竹は決意した。
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