平山

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平山

 逐一報告せよと言っているにもかかわらず、先の報告から一時間以上が過ぎた。  柳と柴田羽衣子との関係を大目に見てやっている自分の甘さに捜査本部にいる平山は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。  一本だけ残った煙草を咥えこちらから柳に電話を掛けたが、なかなか電話に出ない。  まさか電話を手元から離していないだろうな。  あまり自由が過ぎると柳を外すことも検討せねば。  進展しない捜査に苛立ちを募らせていた平山は咥えていた煙草を手に取りぎゅっと握りつぶした。  ようやく電話が繋がり、思わず怒鳴りつけたが、相手の声がふがふがと聞こえるばかりで何を言っているか要領を得ない。柳の声ではないようにも思える。  だが、相手は確かに柳で、現在ただならぬ事態に陥っていることを平山は理解した。  まともな言葉を発せないほど部下がダメージを負っていることにショックを受けながらも警護対象者の安全確保の確認は怠らなかった。 「柴田羽衣子は無事なのか?」  だが、柳はあっと言ったまま数秒無言になり、 「やつのターゲットは柴田さん本人ではないのでたぶん大丈夫だと思うのですが――」  蚊の鳴くような声でふがふが言いわけをした。 「馬鹿やろうっ。たぶん? たぶんと言ったか?   たぶんとはなんだっ、今一緒にいるんじゃないのかっ」 「あの――その――い、いません――あの」 「言いわけは後だ。すぐ柴田羽衣子の安全を確認しろっ」 「はいっ」 「柳っ」 「はいっ」 「お前の身は大丈夫なのか?」 「大丈夫です――何とか――動けます――」 「わかった。すぐそっちに捜査員を動員する。とにかくお前は柴田羽衣子の身を守れ」 「はいっ」  電話を切った平山の本心は揺れていた。  大怪我を負っているであろう柳をこれ以上動かしたくない。もしまた容疑者が現れたとしたら今度は命を奪われかねないからだ。  だが今、彼女を守れるのは柳しかいない。 「あいつの言う通り、容疑者が柴田本人を狙わなければいいが――」  平山は周囲に散らばる捜査員を集合させ、的確に捜査の指示を出した。
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