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蝉の鳴き声がけたたましく鼓膜に響く。
肌に刺さるような強烈な赤い日差しが熱を持って斜めに降り注ぐ。
蒸せ返るような暑さの中、止めどなく溢れる汗を腕で拭う。
今日は夏休み最後日。
時刻は夕方の五時半。夜と昼の境目だ。
五時から日没にかけての時間が、パペットが最も出現しやすい時間だと言われている。
光の時間から闇の時間へと切り替わる時間。
境界が曖昧になる時間。
「っ……」
誰もいない薄暗い学校の廊下を走るのは一人の少女。
学校指定のセーラー服を着込んだその少女は体に纏わり付くような熱気を掻き分け、息を一切乱すことなく、絹のようになめらかな黒い髪を揺らしながら滑るように疾駆する。
髪の隙間から覗く宝石の様な紅い瞳はただ一つの信念を持ち迷いはない。
そして額に汗をわずかに浮かべながらも、その表情に変化はない。
少女のその手には銀に煌めく二本の鎖が握られており、少女の周りを守るように漂っている。
「ギャギャァァ!」
その少女の前を、逃げるように廊下を駆け抜けるのはぬいぐるみの形をした犬。
端から見れば、少女が犬のぬいぐるみを追いかけ回しているように見えるが、そんな和やかな空気ではない。
犬のぬいぐるみの口からは鋭い牙が生え、継接ぎの部分からは綿がはみ出している。
その容貌はまるでホラー映画に登場する狂気に塗れた呪いの人形のようだ。
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