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今、僕は、部屋の隅で膝を抱えて座っている。
閉め切ったカーテンと、放置された布団の湿気。
大好きなはずのロックンロオルは、ずっと何かを英語でがなり立てていて、何を言っているのかわからない。
うるさくなって、ステレオのボリュームを絞る。
生きているのが、つらい。
嫌なことばかりだ。
現実という言葉は、舌打ちとおんなじような響き方をする。
ここのところ、胸のあたりの、少し下のところに、ひどく不機嫌な質量が住み着いている。
そいつのことを、僕は「わだかまり」と呼んでいる。
「なあ、出て行ってくれないか」
「出ていくも何も、全部お前次第じゃないか」
僕は何かを我慢しているらしい。
目頭を押さえつけていたパーカーに目をやると、小さなしみがふたつ。
ほんのり、柔軟剤の香りがした。
ぽつ、ぽつ、ぱら、ぱら。
僕は手を伸ばして、少しだけカーテンを開く。
雨が降っていた。
静かな雨。だが無音とは違う。
僕が物音を立てても、何一つ遮らない。
そういえば、今朝からずっと降り続いている。
窓ガラスの表面張力に迷い込んだ雨粒が一滴、煙のように広がっていく。
窓を少しだけ開けると、ふわっと、つんと、土の匂いがした。
春の雨だ。
景色を、少しだけ濁った透明色に染め上げていく。
向かいの桜の木は、ぬるい雨に包まれてじっとしている。
きっと、いずれ咲く花のために、温かさを蓄えているのだ。
雨にも、体温はあるのだと思った。
ぴかっ!ごろごろごろごろ!!!
「うひゃあ!」
びっくりして窓を閉めてしまった。
窓越しの雨脚は、ざあざあと音を変える。
心地の良いノイズ。まるで、レコードに針をかけた瞬間のような。
ちょっと前にプレイリストをすべて再生し終えたステレオは、なんだか暇そうにしていた。
ボリュームを少しだけ上げて、誰かの鼓動、リズム、その一拍の永遠に耳を傾ける。
そういえば、「わだかまり」はどこへ行ったのだろう。
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