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招かれていつも思うのだが、なかなかとろろナイズされたご家庭だ。床張りは当然全面フローリングだ。たたみはとろろをこぼすと吸収してしまう。そして加湿器がそこかしこに配置されている。これは乾燥を防ぐためだ。あとは名前も分からない名状しがたい器具があったりなかったりするのだが、深くは追及しない。とろろさんのプライベートにはふみこまないよう、俺の中で一線糸を引いている。とろろだけに。
「さあさあ座った座った。客人は働かないものだよ」と、配膳を申し出た俺にまったをかけるとろろさん。
「いや、でも何か悪いですし」
こういうのは何度目だろうか。旦那が居なくなってから幾度となく招かれているけれど、毎度このやりとりをして、そして俺は少しねばついた椅子に座ることになる。俺なりに毎度気を遣っているつもりなのだが、果してこれがとろろさんとの距離感として正しいのかどうか。
「いいのよ、ホント。こうして世話を焼くの、好きなんだから」
そう言って、「はい」と夕食を配膳する。
今夜の夕食は、なんと驚くなかれ、とろろだ。その製造工程は聞かない。
☆
「――でね、学生の時はマネージャーをやっていたのよ」
とろろ、及びとろろさんをおかずに会話が弾む。
彼女は大学時代、バレー部のマネージャーだったらしい。
「ホントはサッカー部がよかったんだけど、ほら、あたしって雨に弱いじゃない?」
そうなのか。全くもって初耳だった。とろろは雨に弱い、というのを心のメモ帳に記しておく。
「田舎の大学だったから、天気の変わり目が読めなくてね。まあ自分でプレーするわけでもないし、そこに拘っても仕方ないかな、と思って」
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