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こういうのが幸せの一つの形かもしれない、とも思う。どうしても、彼女に惹かれていく。なぜだろうか、とろろなのに。人間顔じゃない、とは言ったもののとろろだぜ。
「あっ」と声を出したときに、はもう遅かった。おろし金で親指を引っ掻いてしまい、血が滲む。
「どうしたの?」と覗き込んだ彼女は、血を見るなりさっとどこかへいき、絆創膏を抱えて戻ってきた。
☆
「ほら、だから慣れないことするもんじゃないでしょ」
「はい……本当にお手数かけて、申し訳ありません」
ほらじっとして、と言いながら指に絆創膏を巻いてもらう。ぬるぬるとひんやりとした彼女の手触りが気持ちよいような、気持ち悪いような。痒い。
「よし! これで大丈夫でしょう!」
不器用なのか、わざとなのか、はたまた絆創膏というアイテムに慣れていないのかは分からないが、思ったよりも少し時間をかけて貼られたそれは、俺の中に何となく勲章として残るような気がしている。
「おろし金なんて、若い男の一人暮らしではあまり使わないでしょう? あれ、水でさっと洗うだけでいいのに」
「え、そうなんですか?」
「そうよー。ホント何にも知らないのね」
うふふ、と彼女が笑う。今度は表情の変化が見て取れるような気がした。あくまでとろろだが。
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