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そんな急な雨に打たれたのだろう。とろろさんを見つけたのは、彼女の家の前。
階段の下でなくてよかった、と思う。なぜって、どうやってとろろと一緒に階段を上る?
☆
鍵を開けて、彼女を担ぎ込む。ぬるぬるとして骨がないので苦労したが、ようやくフローリングに運び込む。
「どうしましょう……薬とか、ある場所分かりますか?」
俺はまた強引に彼女を風邪だと思い込むことにした。とろろも元は生き物だ。風邪だって引くだろうし、雨に打たれて引くのは風邪と相場が決まっている。
「あー、あるにはあるけれど……」そう言って、また少し頬を赤らめる彼女。
「ほら、やっぱり風邪じゃないですか。早く薬を飲んだ方がいいですよ」
「ううん、そうじゃなくて――」
言い淀む。何か言いたいが、言いづらい様子なので、
「一宿一飯――よりも、もっとご馳走になってるんですよ。なんでもやりますよ。なんでも言ってください! アクエリとか買ってきましょうか? それとも――」
そこまで言った俺の手を彼女がぬめとした手で握り、
「あのね――」
「擦って欲しいの」
☆
一晩中擦った。彼女の家の中にあって、見て見ぬふりをしていた器具――巨大なおろし金だった――を使って、文字通り汗水たらして、山芋を擦る。
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