擦るぜとろろを

2/5
前へ
/19ページ
次へ
 そんな急な雨に打たれたのだろう。とろろさんを見つけたのは、彼女の家の前。  階段の下でなくてよかった、と思う。なぜって、どうやってとろろと一緒に階段を上る?  ☆  鍵を開けて、彼女を担ぎ込む。ぬるぬるとして骨がないので苦労したが、ようやくフローリングに運び込む。 「どうしましょう……薬とか、ある場所分かりますか?」  俺はまた強引に彼女を風邪だと思い込むことにした。とろろも元は生き物だ。風邪だって引くだろうし、雨に打たれて引くのは風邪と相場が決まっている。 「あー、あるにはあるけれど……」そう言って、また少し頬を赤らめる彼女。 「ほら、やっぱり風邪じゃないですか。早く薬を飲んだ方がいいですよ」 「ううん、そうじゃなくて――」  言い淀む。何か言いたいが、言いづらい様子なので、 「一宿一飯――よりも、もっとご馳走になってるんですよ。なんでもやりますよ。なんでも言ってください! アクエリとか買ってきましょうか? それとも――」  そこまで言った俺の手を彼女がぬめとした手で握り、 「あのね――」 「擦って欲しいの」  ☆  一晩中擦った。彼女の家の中にあって、見て見ぬふりをしていた器具――巨大なおろし金だった――を使って、文字通り汗水たらして、山芋を擦る。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加