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擦っては、彼女に注ぐ。擦っては、注ぐ。さながら氷嚢を取り換えるがごとく、一晩中その作業をしていた。ただただ彼女に尽くしたい、その思いから一心不乱に、辛そうな彼女を助けたいという一心でただただ山芋を擦る。そして注ぐ。
気が付くと朝になっていた。雨は上がっていて、窓の外には青空が見えた。ハッとして、彼女が横たわっていたところに向かうと、彼女がいない。
「とろろさん!」
叫ぶ。昨夜、相当水っぽかった。もしかしたら、考えたくもないが――
「もう、なに叫んでるのよ」
振り向くと、そこにはいつもの大きさに戻ったとろろさんがいた。
「もう大丈夫よ、本当にありがとう」
頭? を下げるとろろさん。
「本当ですか? もう擦らなくても大丈夫ですか?」
「本当よ! むしろちょっと擦り過ぎなくらい。いつもより、体重増えちゃったかも」
そう言って笑う彼女は、どうやらもう本当に元気なようだった。
よかった、とソファーに座り込む俺。時刻は朝の六時。出勤まで、もう少しある。その上行ってもいかなくても良いような会社だ。むしろ、余計なことをしない方がよいので、いかなくても良いのではないか。
「俺、今日有給とろうかな」
そう言って、横に座るとろろさんを見つめる。
とろろさんと俺の視線が交わる。どうだろうか。俺は自分が擦った愛おしい彼女に手を伸ばして、そっと口づけする。
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