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とろろさんのやさしさ
「さあ上がって上がって」
とろろさんが手招きする。
「じゃあ」と遠慮勝ちに玄関まで上がる。
最近は旦那が単身赴任で、寂しくてね――という話を聞いたのは先週。そういえば最近一体しかみないな、と思っていた。どちらも基本的には見分けがつかないので、減ったかどうかも認識していなかった。
だから代わりに、というわけではないが息子ほども年が離れているか――は定かではない若いツバメに相当する俺と食卓を囲むのは、別段とろろさんにとって違和感があるわけではないらしい。
「はーいそがしいそがし」と嬉しそうに這いずり回るとろろさんを見るのは、俺も嫌いではない。世の中どこでも忙しそうにするのが好きな人は珍しくないだろうし、それがとろろだというだけだ。とろろというのが極めて珍しいだけで、他は世間一般のふるまいなんだろう、と都会の人間の動態を知らない俺は思った。珍しいのはとろろだけ、と自分に言い聞かせながら。
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