夏の校舎の大人たち

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*** 「やっぱり文化祭って青春って感じですね……!」 クラスのお化け屋敷の準備が進んでいく様子を見て、最上美玖は感慨深くつぶやいた。 「別に、文化祭だけが青春でもないだろうよ。体育祭も修学旅行も定期試験も、学校行事の全てが青春だろ」 「そう言っちゃ、そうですけど……」 面白くない反応をするのは、クラス担任の金子千波。 美玖はこの春に大学を卒業し、高校教師としての生活をスタートさせた。千波は美玖より7つ年上の先輩教員。50代以上が多い職員室の中では若い方で、生徒からは「千波」と呼び捨てにされ親しまれている。すらっとした背丈と長いまつげ、ちょっとぶっきらぼうだけど優しい性格が、一部の女子生徒に受けてるとか受けてないとか。 美玖は指導教員である千波の副担任として、2年生のクラスを担当している。 「でも私、文化祭って憧れなんですよね。高校の時は文化祭と体育祭が隔年で、文化祭は1回しかなかったから……」 「この仕事してたら、何回でも文化祭楽しめるぞ、よかったな」 「そういうのとは違うんです!」 「あ、千波がまた美玖ちゃん口説いてる!」 ひょっこり教室から生徒が数人顔を出す。 「千波先生、と呼べ。先生と。ちなみに口説いてはいない。指導している」 「まったく生徒が一生懸命お化け屋敷作ってるのにさ、教師がのんきに立ち話なんて大人はずるいよね」 「そうそう。あ、千波、ポスターできたからコピーよろしく!それと、椅子と机が足りない!」 「千波先生、だ。俺は忙しいから、最上先生あとよろしく」 「え?!私ですか?」 「印刷室でコピーして、生徒会の先生に判子押してもらって。椅子と机は総務の先生に聞けば対応してくれるから。俺はしばらく準備室こもる」 「私、このあと裏門警備入ってるんですけど……」 「最上先生の警備担当時間は今から30分後だ。30分あれば十分出来る仕事だろ。ほら、働け働け」 「じゃあ、美玖ちゃん行こう行こうー!」 ひらひらと手を振って、千波は去って行った。 美玖は数人の生徒に押されるようにして職員室へ連行されたのだった。
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