夏の校舎の大人たち

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*** 警備や巡回、調理室の監視、担当クラスの見回りなど、決められたスケジュール以外は、わりと自由に動き回れる。文化祭の時間は、授業がない分普段よりも落ち着いた日になりそうだ。 生徒会担当の先生を除けば。 文化祭までの数週間、生徒会担当の先生たちは過労死するのでは、というくらい朝から晩まで学校にいる。 「ほんと、疲れた。むり。」 隣の席でへばっているのは、同期の浅野ゆうか。 「生徒会大変だね、お疲れ様」 「生徒会激務すぎる……来年は絶対に異動希望だす」 「これでも食べて元気出して」 美玖は生徒の屋台で買った品々を渡した。 「うわ、もうこんなに買ったの?」 「さっき巡回で校内まわってたら、押し売りにあった」 「遠慮なくいただきまーす!あと5分したらステージ見に行かなきゃだし、軽音のライブにも呼ばれてるし、夜の飲み会だけが心の支えだよ……」 「いや、なんだか自分がのんびりしているの申し訳なくなってきた」 「のんびりしてるとこ悪いんだけど、仕事頼まれてくれないか」 向かいの席から声をかけてきたのは千波。 「金子先生!いいですよ、なんですか」 「うちのクラスの白川がスマホなくしたらしい。探すの一緒に手伝ってくれ」 「そういえば先生、落とし物窓口でしたよね」 「ああ。だが、俺のところには該当するスマホは届いてない」 「わかりました。どうすればいいですか」 「俺と一緒に、文化祭をまわってくれ」 「へっ?」 「うわ、先生、デートのお誘いですね!」 隣の席ではしゃぐゆうか。 デート?私と金子先生が2人で文化祭をまわる? 「じゃあ、私ステージの係行ってくる。お二人とも楽しんでください!」 ゆうかは、ばたばたと職員室から出て行った。 千波は空いたゆうかの席に腰をかけて言った。 「さっさと行くぞ、デートにな」 高校生の時の卒業式の記憶がフラッシュバックする。 ――好きな人と文化祭をまわりたい! 金子先生は好きな人ってわけではないけれど。 異性と二人で文化祭をまわるのは、ちょっとドキドキしなくもないような。 「はい!」 そうして美玖は勢いよく椅子から立ち上がった。
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