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警備や巡回、調理室の監視、担当クラスの見回りなど、決められたスケジュール以外は、わりと自由に動き回れる。文化祭の時間は、授業がない分普段よりも落ち着いた日になりそうだ。
生徒会担当の先生を除けば。
文化祭までの数週間、生徒会担当の先生たちは過労死するのでは、というくらい朝から晩まで学校にいる。
「ほんと、疲れた。むり。」
隣の席でへばっているのは、同期の浅野ゆうか。
「生徒会大変だね、お疲れ様」
「生徒会激務すぎる……来年は絶対に異動希望だす」
「これでも食べて元気出して」
美玖は生徒の屋台で買った品々を渡した。
「うわ、もうこんなに買ったの?」
「さっき巡回で校内まわってたら、押し売りにあった」
「遠慮なくいただきまーす!あと5分したらステージ見に行かなきゃだし、軽音のライブにも呼ばれてるし、夜の飲み会だけが心の支えだよ……」
「いや、なんだか自分がのんびりしているの申し訳なくなってきた」
「のんびりしてるとこ悪いんだけど、仕事頼まれてくれないか」
向かいの席から声をかけてきたのは千波。
「金子先生!いいですよ、なんですか」
「うちのクラスの白川がスマホなくしたらしい。探すの一緒に手伝ってくれ」
「そういえば先生、落とし物窓口でしたよね」
「ああ。だが、俺のところには該当するスマホは届いてない」
「わかりました。どうすればいいですか」
「俺と一緒に、文化祭をまわってくれ」
「へっ?」
「うわ、先生、デートのお誘いですね!」
隣の席ではしゃぐゆうか。
デート?私と金子先生が2人で文化祭をまわる?
「じゃあ、私ステージの係行ってくる。お二人とも楽しんでください!」
ゆうかは、ばたばたと職員室から出て行った。
千波は空いたゆうかの席に腰をかけて言った。
「さっさと行くぞ、デートにな」
高校生の時の卒業式の記憶がフラッシュバックする。
――好きな人と文化祭をまわりたい!
金子先生は好きな人ってわけではないけれど。
異性と二人で文化祭をまわるのは、ちょっとドキドキしなくもないような。
「はい!」
そうして美玖は勢いよく椅子から立ち上がった。
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