夏の校舎の大人たち

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*** 「結局、あってよかったですね、白川くんのスマホ」 その後、白川のメモを見ながら、屋台、喫茶店、カジノ、脱出ゲームといろいろな店を二人でめぐった。 生徒と楽しそうにやりとりする千波の姿は、いつもと少し違っていて、彼が女子受けする理由がわかった気がする。 「まったく、迷惑なやつだ」 後夜祭のキャンプファイヤーを眺めながら、千波はつぶやいた。 炎の周りでは、生徒たちが楽しそうにフォークダンスを踊っている。 白川のスマホは、自分のクラスのお化け屋敷の中にあった。 受けつけ用の机の中にしまってあったのだが、教室の中の机と急遽交換することになり、白川の知らないうちにスマホが入った机はお化け屋敷の一部となっていたのだった。 「でも、金子先生のおかげで楽しかったです、文化祭!」 「そうか。じゃあ、もう一つ楽しませてやってもいいかな」 こっちこっち、と千波が校舎へ手招きする。 「後夜祭、まだ終わってないですよ!いいんですか」 「こんなの、流れ解散だからいいんだよ。クラスもなにもわかりゃしない」 後夜祭の間、校舎の中は生徒立ち入り禁止になっていて昼間の賑やかさが嘘みたいに静かになっていた。 千波は職員室がある2階を素通りして、どんどん上へと階段を上がっていく。 「どこ行くんですか」 「屋上」 「屋上って入れるんですか?」 「教員特権」 屋上なんて、学生の時も教員になってからも入ったことがない。 少し、わくわくする。 屋上に出ると、まだ夏だけど秋を感じさせるような風が吹いて、爽やかな気分になった。 キャンプファイヤーの炎はもう消えていて、それでも生徒はグラウンドにたくさん残っていた。 「後夜祭の最後に花火があがる」 「花火!いいですね!今年は忙しくて花火大会行けなかったんです」 「生徒はグラウンドから見るしかないが、俺たちは校舎内から快適に見ることができる。屋上は誰も気づかないベストポイントだということに去年気づいた」 ほら、始まるぞ。千波はグラウンドを指さす。 下では、生徒が打ち上げまでのカウントダウンをしていた。
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