42 前戯

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 もっと深く、大胆に舌を絡めて。たくましい郁の首に腕を回して、甘えた子どもみたいに口を開けて、キスにしゃぶりつく。 「ン、ぁっ……っん」  濡れた音が寝室に響いてた。 「シャワー、浴びた?」 「んっ」 「シャンプーの香りがする。それに、まだ、濡れてる?」  浴びる、でしょ? これから、するんだから。  髪の指を差し込まれて、小さく声が零れた。間に合わなかったんだ。卒業式に出席して、生徒だった郁はそのまま教室に。保護者は帰りを待つ人もいれば、先に帰る人もいた。僕は、式が終わると同時にうちに帰ってきて。  身体を洗って、だから、髪が全然乾ききらなかった。 「早く、したくて」 「……」 「帰ってすぐに入ったんだ」 「シャワーは? 俺、走って帰ってきたけど? 汗かいてる」  男っぽく笑う郁の唇を指でなぞる。左手の、輝くピンクゴールドの輪を飾った薬指で。 「俺はシャワーしなくていいの? 文」 「そんな意地悪、いつ覚えたの?」  僕、そんなことするように育てた覚えないんだけど? 「っ」  そうだった? ってまた笑って、郁が輪をした薬指の柔いところを歯で齧った。少し、強く齧られて、僅かでも肩を揺らして反応したら、ほくそ笑んで、また深いキスをする。舌を差し込まれて、唾液が流し込まれて、内側が濡れてくような気がするくらい、濃い口付け。そのやらしい舌を貪るように、濃密なキスに溺れるように自分からもキスを欲しがって舌を絡めた。  笑って意地悪をする、その口元を食んで、唇を濡らそうと舐めて。 「あっ」  僕の舌で濡れた唇が、乳首にキスをした。 「あっ、んっ」  ただ平ったいだけの胸なのに、郁の唇に食まれて、舐められて、齧られたら、なんで、こんなに。 「あ、ぁ、っ、やぁっ……ン」  なんで。こんな自分は知らなくて少し怖い。 「痛かった? 痛かったら、言って?」 「郁っ……ン」 「加減、わかんねぇ」  暴走しそうだと郁が呟いた。  あぁ、うん。実は、僕も暴走してしまいそうなんだ。 「加減、しないでいい、よ」  だって、郁、だもの。 「文?」 「ン」  郁の唇は、舌はなんて気持ちイイんだろう。  思わず、頬に両手を添えて、その気持ちイイところにキスをした。そっと触れて、舐めて、乳首を食んでくれた唇に歯を立てる。 「もっと、して?」 「……」 「……もっと、たくさんして欲しい。お願い」  ねだったら、頬を両手で包みこまれたまま、じっと僕を見つめていた眼差しが艶めいた。濡れたように光って、そして、押し倒された時、翳った表情にゾクりとした。  倒れた拍子に肌蹴た着物。  裸で、郁に抱かれるのを待ってたから、全部が曝け出されてしまう。 「して? ずっと、して、欲しかった」  加減なんてしないで。 「っ、文」  ずっとずっと、待ってたんだから。 「文っ」  制服を雑に脱いでいく。ブレザーを捨てるように放って。ネクタイを邪魔そうに緩めて、しかめっ面をすると、切なくなってしまうほど男の顔をしてた。  今から、僕を抱く男の顔を。  だから、抱いてもらうためにシャツを脱ぐのを手伝った。高校生だった。制服のシャツの小さなボタンを一つずつ外して、その肌に、僕からもキスをした。唇で肌に触れて、歯でカリカリって、齧って、ちょっとだけ吸って、吸ったところを舌先で濡らしてく。甘い音を立てながら、全部のボタンを外していく。ずっとこんなふうに触りたかったから、丁寧に、ゆっくりと。  郁の裸。 「っ」  やだな。直視できない。喉奥からこみ上げてくる熱に内側がとろけて濡れていく気がして、無意識に口元を手の甲で拭った。その手を掴まれて、また布団に押し倒された。  脚を割り開かれて、僕が裸にした郁に組み敷かれて、布団の上に縫い付けられて。 「ちょっと冷たいかも」 「あっ……ン」  ひんやりとしたローションが垂らされた。反応して硬くなっていた根元から、ツーって垂れていく冷たい雫。 「郁」 「?」  手に触れた。 「あの、ごめんね。お風呂入ったけど、その準備してないの。その……」 「……」 「初めて、中に入ってくるのは」  その手を掴んで、しゃぶりついた。興奮で熱くなってる口の中で、郁の長い指をあっためて、濡らす。 「郁の指がよかったから」  この指にほぐされたいと、ねだった。  すごい違和感があったのは最初だけ。 「あ、ぁっ……ン、ん」  くちゅりと、また違う濡れた甘い音が布団の上、身悶える僕の身体の奥から聞こえた。 「あ、っン」  くちゅ、くちゅりって。 「あぁぁっ」  やらしい音。 「今、二本」 「う、ン」  抉じ開けられる感じ。指が中を擦ると、ぞわりとして、お腹の中を掻き混ぜられてるって感じる。 「平気?」 「ン」  最初から、快感は得られないんだって。圧迫感とか、違和感とか、のほうが快楽よりも勝ってしまうんだって。  そうなんだって。 「……き」  郁のことずっとずっと欲しいと思ってたからかな。 「文?」  のそりと起き上がった。脚をはしたなく開いて、お尻のところに郁の指を二本、挿れたまま、力入らない腕で身体を支えて起き上がってから、郁へと片手を伸ばす。 「好き、郁が触ってくれるの、どこでも気持ちイイから、ンっ……ん」 「……」 「好き」  郁のそそり立った硬いそれへと。 「好き、だから」  手を伸ばして、郁のを握った。
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