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「ちょ、あれ、今時のライターって、こ、こんなに硬いの?」
なんかもう少しやりやすかった気が、したん、です、けどもっ。ぐっと力を入れてもどうにも動いてくれなくて、こんなもの片手じゃ点けられそうもない。
「子どもが遊ばないようにってしてあるんだよ。貸して」
あぁ、なるほど。たしかにこれだけ硬いのなら、子どもは使えない。
郁が隣にしゃがみこみ、骨っぽくなった手で僕から受け取ったライターを覆い隠した。そして、ジュッて音を立てて、端を指で擦る。
「なんか、ずいぶん手馴れてない? まさか! 郁っ」
「バーカ、ねぇよ」
「んなっ、年上に向かってバカとは!」
クスッと笑って、郁がライターの灯をろうそくへと移した。ほわりと、火が灯って、郁の顔を照らす。玄関のところにある照明だけで、あとは薄暗い中、あんまり遅い時間にやると隣の林さんに見つかりそうだから、頃合を見計らって。
「タバコなんか吸わねぇよ。におい、したことないだろ?」
「な、ないけど」
「ほら」
肩がぴったりとくっついた郁が首筋を晒した。まるでドラキュラへの生贄みたいに。首を傾げてるからなのか、筋肉のラインがろうそくの柔らかい灯に照らされて、春風が吹く度に、その陰影も揺れて、落ち着かない。
「わ、わかったってば」
顔が、熱くなった。ろうそくの小さな火にでも当てられたのか、頬が熱くて、無意識に自分の指で熱があるのかと確かめてしまう。
「は、花火っ、湿気てないかな」
「……」
「郁が中学三年の時のだからなぁ」
「俺が?」
「うん。そう」
中学三年生の夏に一緒にやろうと思って、夕飯の買い物ついでに買ったんだ。
二人でやるならこのくらいで充分かなって考えて。でも、その日は友だちが遊びに来ててできなかった。次の日は雨が降っちゃって、その後は、まぁ、仕事とか忙しかったんだろう。タイミングを逃したまま、花火は倉庫にしまわれることになった。
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