8 ひらり、花火

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「ちょ、あれ、今時のライターって、こ、こんなに硬いの?」  なんかもう少しやりやすかった気が、したん、です、けどもっ。ぐっと力を入れてもどうにも動いてくれなくて、こんなもの片手じゃ点けられそうもない。 「子どもが遊ばないようにってしてあるんだよ。貸して」  あぁ、なるほど。たしかにこれだけ硬いのなら、子どもは使えない。  郁が隣にしゃがみこみ、骨っぽくなった手で僕から受け取ったライターを覆い隠した。そして、ジュッて音を立てて、端を指で擦る。 「なんか、ずいぶん手馴れてない? まさか! 郁っ」 「バーカ、ねぇよ」 「んなっ、年上に向かってバカとは!」  クスッと笑って、郁がライターの灯をろうそくへと移した。ほわりと、火が灯って、郁の顔を照らす。玄関のところにある照明だけで、あとは薄暗い中、あんまり遅い時間にやると隣の林さんに見つかりそうだから、頃合を見計らって。 「タバコなんか吸わねぇよ。におい、したことないだろ?」 「な、ないけど」 「ほら」  肩がぴったりとくっついた郁が首筋を晒した。まるでドラキュラへの生贄みたいに。首を傾げてるからなのか、筋肉のラインがろうそくの柔らかい灯に照らされて、春風が吹く度に、その陰影も揺れて、落ち着かない。 「わ、わかったってば」  顔が、熱くなった。ろうそくの小さな火にでも当てられたのか、頬が熱くて、無意識に自分の指で熱があるのかと確かめてしまう。 「は、花火っ、湿気てないかな」 「……」 「郁が中学三年の時のだからなぁ」 「俺が?」 「うん。そう」  中学三年生の夏に一緒にやろうと思って、夕飯の買い物ついでに買ったんだ。  二人でやるならこのくらいで充分かなって考えて。でも、その日は友だちが遊びに来ててできなかった。次の日は雨が降っちゃって、その後は、まぁ、仕事とか忙しかったんだろう。タイミングを逃したまま、花火は倉庫にしまわれることになった。
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