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最後に手に取ったのは長持ち花火。
とはいっても、たったの三十秒なんだけれど。でもそれが二本入ってた。
「郁、じゃあ、これで勝負しよう」
「ご先祖供養で勝負すんの?」
「そう! りょうちゃん、好きそうじゃない?」
クスッと、郁が笑った。ほら、ちょうど、ろうそくの火もそろそろ終わりだ。地面から火がポッと灯ってるみたいに見える。
よぉし、って同時に先端の和紙をかざした。
シュワッと音がして、勢いよく火が飛んでいく。光のすだれみたいに落っこちて、火の花が地面にぴょんぴょん跳ねていた。
「どっちかっ」
「つか、少しだけ文のほうが早かっただろ」
「え? 郁でしょ」
「文だって」
少しだけお互いに意地を張っている間に火がふわりと消えてしまった。パッと消えて、辺りが真っ暗になる。玄関の明かりは点いていたけれど、花火の鮮やかな閃光に比べたら微かなもので、一瞬で、目が戸惑う。
「あ、えっと、あとは線香花火が」
「文!」
「!」
鋭い声、それと、強い力で引き寄せられて。
「あっぶね」
戸惑うよ。真っ暗な中でもわかるほど、郁の顔がものすごく間近にあって、驚いて、そして。
「……文」
そして、僕は自分が戸惑ってることに、また、驚いた。
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