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五歳の時は、その前日に公園で思いきり転んだらしく、膝小僧に大きなガーゼを貼っていた。痛かっただろうにって言ったら痛くないって。でも、お風呂では沁みるから入りたくないって駄々を捏ねてた。
――じゃあ痛くないように、全部吸い取ってあげよう。
本当に傷に口をつけたわけじゃない。口元を近づけて、すうううううって、思いきり吸ってみせるだけ。
びっくりした顔をしてた。やっぱり痛かったぁって泣く郁を抱っこしてあげたら、とても重たかった。
六歳の君は、小学校に、あがるんだよって嬉しそうにしていた。大きな桜の木がある学校に通うんだと話してくれた頬が桜みたいにほんのり色づいていた。
「桜、ちょっと散りかけだけどね」
「……」
十二歳の君は、悲しみのどん底にいた。手がとてもこわばっていた。だから、手を繋いだ。
「あの、おじさんとおばさんは……」
「あー、実は事故で亡くなって」
「え……」
「少し前だよ」
葬儀に呼ばなかったね。俺もバタバタしてたし、悲しみが深かったから、そこまで考えられなかった。青木の叔父さんが呼ぶ人に声をかけてくれた中に、りょうちゃん、入ってなかった。僕は始終俯いていて、それに気がつけなくて。ごめんね。
きっと、親戚の中で、りょうちゃんは浮いていたんだろう。葬儀の間中、耳障りだった噂話の声たちだけでもそれは感じ取れたけれど。
「だから、俺が君の親代わり」
「……」
「って、あんまりしっかりしてないかもだけどさ」
十二歳の君は。
「わっ!」
風が吹いて、満開をすぎた桜の花びらが音もなく雪のように舞い散っていく。
そうだ。
六歳の君は動きも活発で、さすがダンサーの息子らしく、ほらちょうどそこの庭先のところで舞い落ちる花びらを掴んで遊んでた。ひらり、ひらりって、不規則に揺れながら落ちる花びらを地面に辿り着く前に掴もうとして。至難の業だけれど。
――見て! 文にいちゃん! 取ったよ!
でも、君は桜色のほっぺたで笑いながら掌から一枚花びらを僕にくれたんだ。
「っぷ」
「? 郁」
「鼻のとこ、付いてるよ」
「?」
まあるくて小さかった手は。
「桜の花びら」
もう丸くない。
「文彦さん」
けれど、さっき葬儀の時とも違う。今、桜の花びらを取ってくれた指、鼻先にちょっとだけ触れたその指は六歳の君と同じに優しくて、あったかかった。
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